「テレビは核兵器に勝る武器」は正しいのか
2022年の参院選に向けての党首討論で、NHK党の立花孝志党首が「テレビは核兵器に勝る武器」と発言したことが話題になった。たしかに、人々が二度の世界大戦における強力なプロパガンダを目の当たりにしていた時代には、マスメディアは強大な影響力を持つとされており、無抵抗な人々を打ち抜く「魔法の弾丸」や、ひとたび薬剤が体内に入れば誰も抵抗できない「皮下注射」にたとえられたことがあった。
一方、後述するがテレビ局や新聞社に対する信頼度は高いとはいえず、インターネットの登場により従来のマスメディアの存在感もかつてと比べて薄くなっている印象がある。はたして「テレビは核兵器に勝る武器」なのだろうか。本稿では、まず「限定効果論」と呼ばれる研究を軸に、マスメディアの影響力を論じたい。
立花党首によるこのような見方は、マスメディア研究では「強力効果論」と呼ばれていた。だが、調査や実験の結果、1950年代までにこの理論は覆されている。その後、1960年代まで盛んに研究されるようになったのが「限定効果論」と呼ばれるものだ。「限定効果論」はマスメディアが仮に人々を特定の方向に誘導しようとしても、人間は大きく分けて2種類のバリアに守られており、そう上手くいかないと考える。
ひとつ目のバリアは我々の頭の中にある。人間は、自分が元々持つ意見に沿った情報に接触し、意見に反する情報を避ける選択的接触と呼ばれる傾向を持つ。たとえば、安倍元首相の国葬に賛成する人々は、海外の首脳からの弔意や当日の反対デモの参加者の少なさといった情報に積極的に接触する一方で、反対する人々は国葬の法的根拠や過半数の反対が示された世論調査などの情報に接触するということである。
2つ目のバリアは我々を取り囲む周囲の人々である。数千年前の中国の古典に起源を持つ「類は友を呼ぶ」ということわざに表れているように、人間は昔から自分と似た他者に囲まれて生きている。そしてマスメディアが伝える情報は人々に直接影響するのではなく、集団内のオピニオンリーダーと呼ばれる人々に届き、マスメディアが伝える情報を取捨選択・解釈して周囲の人々に間接的に伝達する構造を持つ。
そのため、マスメディアが人々の意見に反する情報を伝えたところで、オピニオンリーダーによって撥ねつけられてしまうのである。一方で、オピニオンリーダーから伝えられた情報は、人々の意見変容のきっかけとなることが多い。人々の意見に強い影響を与えるのは、マスメディアではなく周囲の他者なのである。これはコミュニケーションの2段の流れ説と呼ばれる。