理由④最悪の事態はローン破綻者の多発

なかでも、もっとも影響が大きいのは個人の住宅ローンです。超低金利時代が長く続いたことから、国内では変動金利で住宅ローンを組む人が圧倒的に多くなっています。変動金利の場合、金利が上昇するとローンの返済額もそれに合わせて増えていきます。今後、金利が急騰する事態になった場合、ローンの返済に追われる世帯が増え、最悪の場合、ローン破綻者が多発することが考えられます。

たとえば5000万円を銀行から借り入れ、30年で返済するプランの場合、金利が0.5%であれば、月々の返済額は約15万円(返済総額は5385万円)ですみます(図表2)。これが、金利が2%になると、月々の返済額は18万4809円(返済総額は6653万円)と大幅に増加します。

金利が1.5%上がるだけで、住宅ローンの支払総額は1000万円以上増える(出典=『スタグフレーション――生活を直撃する経済危機』より)

もっとも、変動金利商品の多くには緩和措置が組み込まれており、この条項があれば、仮に金利が上昇しても毎月の返済額は5年間据え置かれ、5年が経過したあとも最大で25%しか増えません。

しかしながら、緩和措置によって不足した返済分は免除されるわけではなく、ローン終了時点で一括返済を求められるケースがほとんどです。しかも一部の商品にはこうした緩和措置が盛り込まれていないことがありますから、商品によっては急激に支払額が増えることもありえます。

だから安易に金利を引き上げられない

日本の住宅ローンは、借り手にすべての責任を負わせる厳しい契約であり、借りた金額はすべて自身が返済しなければなりません。ローンが払えなくなり、自宅を売却したとしても、残高がある場合には、完済が求められます。

加谷珪一『スタグフレーション――生活を直撃する経済危機』(祥伝社新書)

いっぽう、消費者保護が徹底している米国では、住宅ローンを返せなくなった場合には、自宅を銀行に渡せば、それ以上の返済義務は発生しません(ノンリコースローン)。借り手負担が大きい日本の場合、変動金利が多い状態で金利が上昇すると、景気には大きなマイナス要因となってしまうのです。

一連の状況を考えると、日本では安易に金利を引き上げることができず、日銀も量的緩和策を継続せざるを得ない状況となっており、これが円安をさらに加速させる作用をもたらしています。

次回は、インフレ時代の資産防衛について言及します。

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