「国民の資産なので問題ない」は的外れ

政府が抱える借金の話をすると、必ずと言ってよいほど、「政府の借金は国民の資産なので何の問題もない」といった声高な批判を受けるのですが、これはまったくピントがズレた議論と言ってよいでしょう。

国債がその保有者にとって資産であるのは当たり前の事実であり、逆に言えば、正当な資産である以上、国債を発行した政府は、保有者に対して利子を支払わなければなりません。

金利が上がれば、利払いの金額が増えることは、厳然とした事実ですから、政府債務が多いことはそれだけで大きな問題を引き起こすのです。ファーストリテイリングの柳井氏は先ほどの発言に続いて「これ以上、円安が続くと日本の財政に悪影響」と述べていますが、柳井氏はこうした事態を懸念しているのです。

理由②日銀が恐れているのは国債価格の下落

政府と同様、日銀も金利を引き上げたくありません。

メディアでは、安倍晋三元首相が、自身が推進してきたアベノミクスの正当性を強調したいがために、金融政策の転換に反対してきたという記事をよく見かけます。日銀の黒田東彦総裁はアベノミクスの立役者の1人ですから、政治的な理由から日銀が政策転換を実施できないというのもありえない話ではありません。

そのような力学が働いているかについては、筆者の立場では何とも言えませんが、それとは別に、日銀には金融理論上の問題として金利の引き上げを望まない理由があります。

それは、日銀が抱えている大量の国債です。日銀は量的緩和策の実施以降、市場から大量の国債を買い付けており、2022年6月末時点において日銀が保有する国債の残高は542兆円に達しています。金利と国債の価格には裏表の関係が成立しており、金利が上がるということは、国債価格が下落することとイコールになります。

もし、ここで金利が上昇した場合、日銀が保有する国債価格も理論上、下落することになりますから、日銀は含み損を抱えます。もっとも日銀は、満期まで保有する国債については時価評価ではなく、簿価評価することになっており、金利が上がったからといって、帳簿上で損失を計上する必要はありません。

一部の論者は、日銀は簿価評価なので金利が上がっても問題ないと主張していますが、それは現実のマーケットを知らない机上の空論です。