次に注目したのは10秒ほどの動画だった。くっきりと白線が引かれた丁字路がそこには映っていた。衛星写真を閲覧できる「グーグルアース」で喫茶店の周辺を探索すると、数カ所の丁字路に絞り込めた。

決定的だったのは、自宅のインターホンの画面越しに撮影していた元彼の投稿写真。アーチ状のアパートの雨よけが写り込んでいた。

今度は地上で撮影された写真を検索できるグーグルマップの「ストリートビュー」で、候補の丁字路をたどると、よく似たアパートがあった。写真に写っていた階段との位置関係から、部屋番号まで特定することができた。

「喫茶店のエリアがわかってからは1時間ほどしかかからなかったです。地域を絞り込んでしまえば、そう難しくはない」。大和さんはそう涼しげに話し、記者を驚かせた。

一方で、大和さんはこう強調する。「調べ上げた個人情報をネットにさらす人もいるが、一線を越えてはいけない。自分は『正義の案件』しかやらない」

しかし、ネット上の公開情報を使った「善意のオシント」もリスクをはらむ。そもそも女性の訴えは真実なのか。女性は大和さんから教えてもらった「元彼の転居先」とされる情報をどう使ったのか……。疑問は残った。

記者は「その後、女性は元彼からお金を返してもらったんですか?」と尋ねたが、大和さんは「その後については知りません」と、興味がない口ぶりだった。遊び感覚で特定しているので、報酬は受け取っていないという。

卒業証書、停電、リュックやカバンも要注意

ネット上の公開情報を手がかりに詳細な個人情報を明らかにする「特定屋」の存在。裏を返せば、何気ないSNS投稿もその手がかりにされてしまう。

その一例が、卒業証書だ。卒業シーズンに入ると門出を迎えて高ぶる気持ちとともに、積極的な投稿が目立ち始める。しかし、名前や校名を伏せたとしても、証書はオリジナルで作成されているケースが多く、デザインや色から学校の特定につながりかねない。

写真=iStock.com/Yue_
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エンジニアに取材して、「盲点だった」と驚いたのが、災害時の投稿だった。特に落雷は発生エリアが絞られ、位置情報が特定されやすい。停電ともなれば、各電力会社は住民に発生を伝えるため、ほぼリアルタイムで停電エリアを公表する。まさに公開情報だ。

投稿時間や画像によって住所は丁目単位まで特定可能だし、停電の規模によっては「10軒未満」に絞り込まれてしまう。「家が停電した」という何気ない投稿にも細心の注意が必要になるのだ。

リュックやカバンにも気を配らなければいけない。顔を映していなくても、ぶらさげているIC定期券が映っていれば、自宅や学校、勤務先の最寄り駅が特定されかねない。今では画像が不明瞭であっても読み解けるように解析する技術もある。定期券に印字されている駅名がぼやけていても、わかってしまう場合もある。