「高齢期のお金を考える会」を主宰するファイナンシャルプランナーの畠中雅子さん

畠中さんはフランス・アルツハイマー村の見学とあわせて、オランダのホグウェイも見学してきたという。村には27棟の居住棟があり、四つのライフスタイル別に入居者の好みの居住棟で、それぞれに7~8人が暮らす。ほかにスーパーやカフェ、レストラン、パブ、カルチャー施設、スポーツ施設、図書館、映画館などの娯楽施設も整っている。

入居者は「認知症患者」ではなく、「たまたま認知症を患った、ひとりの人」。なるべく手出しをせず見守るケアを主とし、あえて『介護しない』のが方針。アルツハイマー村は、その理念を受け継いでいる。

オランダのホグウェイ(c)VIVIUM ZORGGROPE/DE HOGEWEYK

一般的に、介護施設でのケアは「介護しやすいように」という介護する側の視点が重視されがちだ。しかし、アルツハイマー村やホグウェイでのケアは、「日本の介護施設でおこなわれている介護とは大きく異なる」と畠中さんは話す。

「アルツハイマー村でもホグウェイでも、介護のしやすさは度外視で、入居者が自由に暮らせるための努力しかしていないと感じました。たとえばホグウェイでは、スタッフが手伝えば5分で終わることを、30分かかっても本人がするのを見守る。スタッフは大変だと思いますが、そういう理念をしっかり理解している人だけが勤務しているのでしょう。入居者の尊厳を守るための施設という印象を受けました」(畠中さん)

では、認知症の人でも尊厳を持って暮らせるアルツハイマー村での生活とは、どのようなものなのか。

村の中では、誰もが自由に行きたい場所に行き、過ごしたいように過ごす。一般的にいう「徘徊」も、ここでは「散歩」だ。

「日本ではすぐスタッフが出てきて『戻りましょう』と連れて行くなどしますが、ここではそういうことはありません。みんなが自由に歩き回っていて、危険がない限りは誰も止めません。本当に迷っている様子がみられたときは、さりげなくスタッフがそばに行き、一緒に散歩をしながら帰ります。車イスの人でも家の中で寝たきりということはなく、多くの人が外に出て歩き回ったり、ベンチに座っておしゃべりしたり。男性は若い女性のスタッフと楽しそうに話している姿も見かけましたね」(同)