安全管理も徹底されており、敷地内に自転車や車は入れない、死角をつくらないなど、危険は排除されている。一方で、村の中には適度な坂道もある。これは、足腰の衰えを防ぐため、あえて勾配をつけているのだという。

スーパーには日々の生活に必要な日用品や食料品が置かれており、入居者は買い物もできる。金銭を支払わなくても、後日、利用料に加算して支払うので持ち去っても問題ない。

オランダのホグウェイ内のスーパー(c)VIVIUM ZORGGROPE/DE HOGEWEYK
オランダのホグウェイ内のスーパー(c)VIVIUM ZORGGROPE/DE HOGEWEYK

食事はスタッフが作り、元気な入居者が手伝うこともある。気が向けば、食堂でほかの入居者やスタッフと食べる人もいる。食事時間が管理され「何時だから食べてください」と言われることもない。食事を忘れてしまう人には「そろそろ食べましょうか」と誘うことはあるが、食べたことを忘れてしまった人に「さっき食べたから、もう食べなくていいんです」とは言わない。基本的には、食べたいときに食べることが可能なのだ。

特徴的な設備もある。電車のように座席が配置された箱形の部屋があり、そこは認知症の人が「家に帰りたい」と言ったときに、精神科の医師に相談した上で入るところだという。スタッフと一緒にシートに座ると、車窓に流れる景色の映像がDVDで映し出される。しばらくそれを見るうちに気分が落ち着き、「帰りたい」という気持ちを忘れるのだとか。

フランスのアルツハイマー村の電車のような部屋
写真提供=畠中雅子さん
フランスのアルツハイマー村の電車のような部屋

畠中さんが印象的だったのは、スタッフに「認知症の人が多く暮らすなかで、トラブルはないのですか」と尋ねたとき、「ありませんね」という答えが戻ったこと。その理由は、「ここでは認知症の人に我慢させることがないから」だという。

認知症の人は、怒りやすくなったり、攻撃的になり暴力をふるったりすることがある。ただ、アルツハイマー村では、そういう症状がみられる人はほとんどいない。「それをしてはダメ」と制止されたり、否定されたりすることがないため、怒りやいらだちという感情が生まれにくいからだという。

ホグウェイのほうで聞いた話だが、こうした外に出て歩き回ったり、人と交流したりしながら自由に過ごせる環境では、「寝たきりになるのは亡くなる前の3~4日、長くても5日」という。