ここはいわば、百貨店が長年抱えてきた「フードロス」の課題に対処するための実証店舗。来店客の動きや閉店時間を見計らいながら、切り身や総菜など段階を追って加工を施す労務面の省力化につながる一歩でもある。

撮影=平良尚也
見慣れない陳列ケースに戸惑う客もいるが、浅田社長は「これからどんどんおもしろくなっていく」と自信を見せる

瀬戸内の鮮魚が都心の食卓へ

同業他社は敏感に、新たなビジネスの芽を察知する。

「これなら都内の駅中の小型店でも鮮魚が扱えるようになるかもしれない」

冒頭の大手スーパーの幹部は、鮮魚コーナーの前からなかなか離れようとしない。最新の冷凍技術によって、賞味期限や鮮度管理の課題をクリアできるなら、都心でも「瀬戸内の鮮魚」を日常的に買えるシーンが一気に広げられる可能性がある。販路が限られていた地方の一次産品の商圏が広がることで、鮮度劣化と闘う漁業者の負担を減らして魚の価値を高め、収入増につなげる基盤となりうる。豊かな漁場を身近に抱える地方の百貨店が、その実践の先駆けの場になった意義は、決して小さくない。

その一方で、陳列ケースいっぱいに冷凍商品ばかりが並べられた鮮魚売り場は、味気なくも感じられる。売り場を観察していると、買い物客はまばらだ。丸ごと一匹の魚をどう調理していいのか迷うように、商品をカゴに入れたり戻したりする客の姿がよく見られるという。

「販売する側も買う側もどうしていいのか分からない。それが乗り越えないといけない壁ですが、これからです。見ていてください。どんどんおもしろくなっていきますよ」

浅田社長がそう確信できるのは、食品売り場を手がけるパートナー企業の運営方針に、百貨店として「やりたいこと」と、お客やつくり手が「喜ぶこと」を両立させるヒントが詰まっていると、感じているからだ。

20年近く行っていないのに再生を引き受けた

松山三越の地下食品売り場の運営を取り仕切るのは、松山を拠点に建築デザインやブランディング事業を手がけるNINO代表の二宮敏氏(40)と、東京都羽村市など都内を中心に展開するスーパーマーケット「福島屋」会長の福島徹氏(70)。2人は、ゼロから地域の百貨店をつくり直そうと奔走する浅田社長の熱意に触発され、“デパ地下でもスーパーでもない”、新しい「食」の事業を仕掛けていくチームとして新会社を設立、初めてタッグを組んだ。

筆者撮影
「THE CENTRAL MARKET」の運営に携わる二宮敏氏。2013年にデザインスタジオを設立。道後温泉をアートで彩る活性化プロジェクトやまちづくりなどを手がけた経験を生かして松山三越の再生プロジェクトに参画した

二宮氏にとっての松山三越は「祖父が大工で、松山三越の建築に関わった」というほど縁が深い。「家族と訪れたワクワクする特別な場所」という思い出があるが、愛媛県外で建築やデザインを学び地元に戻って20年近く、百貨店に足を運んでこなかった一人だ。客離れが進む百貨店の現状を「どこでも買えるような商品で埋められた売り場に限界がきていた」とみる。