賃金は増えず、生活必需品は値上がりが続く

その背景の一つとして、ウクライナ危機をきっかけにして世界経済全体で供給が一段と不安定化したことは大きい。わが国が輸入する小麦などの穀物の価格は一時大きく上昇し、その後も不安定だ。火力発電に使われる天然ガスの価格も上昇している。輸入するモノの価格上昇と円安の掛け算によって、わが国企業は強烈なコストプッシュ圧力に直面している。企業は業績を守るためにコストの転嫁を余儀なくされる。その結果として、わが国ではコストプッシュインフレが進んでいる。

米国とは異なり、わが国の実質ベースの賃金は伸び悩んでいる。毎月勤労統計調査によると、7月まで4カ月連続でわが国の1人あたり実質賃金の前年同月比変化率はマイナスだった。賃金が増えない一方で、電気代、ガス代、および穀物、生鮮野菜や生鮮魚介といった食料など日常生活に不可欠なモノなどの価格は上昇している。家計の生活の厳しさは一段と高まるだろう。

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また、中小企業の事業運営に対する負の影響も懸念される。東京商工リサーチによると、8月は円安関連の倒産が5件起きた。さらなる円安の進行が現実のものとなれば、家計や中小企業への逆風は一段と強まると懸念される。

徐々にドル高・円安の流れは弱まる

やや長めの目線で考えると、徐々に円売りのポジションは巻き戻され、ドル高・円安の流れは弱まるだろう。まず、ヘッジファンドなどの投機筋は、買ったものはいずれ売り、売ったものは買い戻す。例えば、ジャクソンホール以降の円安の進行によって、円をショート(空売り)した投資家は、円安が進行したことによってある程度の利得を手に入れただろう。

彼らは円を買い戻すことによってポジション(持ち高)を中立にし、次の利得確保のチャンスを狙う。9月7日に144円99銭を付けた後、円はドルに対して反発した。その背景には、円キャリートレードの巻き戻しが影響している。