ニコライ1世はヨーロッパ的な価値よりもロシア的な固有の価値を重視した。そのイデオロギーは、専制、ロシア正教会、国民性(ナロードノスチ)の3本柱である。

ニコライ1世の肖像(図版=フランツ・クリューガー/エルミタージュ美術館/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

専制というのは、皇帝権力の絶対性を擁護し、皇帝権力はなにものにも制約されないということである。また、ロシア正教会は、東ローマ帝国(ビザンツ帝国)からロシアが受容したキリスト教であり、西ローマ帝国からヨーロッパが継承したカトリック、そしてそこから派生したプロテスタントとは異なる流れである。国民性というのは、専制と正教会への全面的献身こそがロシア国民の国民性であるという考え方である。

こうしたニコライ1世の時代の国家的なイデオロギーは、実は現代のロシアにもある程度通じるものがある。

ロシア革命によって皇帝はいなくなったが、専制的な強権政治はソ連時代も現代ロシアでも同じだ。そして、先の世論調査に見たように、ロシア政府の立場を支持しているロシアの国民性にも共通点があることがわかるだろう。

愛国心が無尽蔵に生み出されるカラクリ

また、正教信仰もソ連崩壊とともに輝かしい復活を遂げ、今や正教会はプーチン政権と一体となっている。

正教会は同じキリスト教でもカトリックやプロテスタントとは色合いが違う。カトリックにおけるローマ教皇のような普遍的な権威はなく、あくまでもロシア正教会のトップである「モスクワおよび全ルーシの総主教」がトップである。

カトリックの普遍主義とは異なり、土着主義であり、民族教会を基本としている。民族教会の自治独立権が尊重され、民族語での礼拝が認められていた。ロシアの正教徒は他の総主教ではなく、あくまでもロシアの総主教に従うのである。このように正教会はそもそもナショナリズムと結びつきやすい土台を持っていると言える。

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政権支持の背景にある「ロシアに対する信仰」

実はロシア国民が信じているのは、プーチンという個人でもなければ、なおさら政府でもない。また、一般的で普遍的なキリスト教の神というのでもない。それは、ロシア正教会の神によって守られた「ロシア」という国家なのである。

ロシアに対する信仰、これがロシアの国民性の根幹にある。ナショナリズムに裏打ちされたパトリオティズム(愛国主義)と言ってもいい。このロシアへの信仰の中身は、次のようなものだ。

「ロシアは偉大な祖国である。ロシアは、国土、歴史、文化、そしてロシア正教によって形成された一つの文明圏であり、世界の命運の鍵を握る大国である」

このロシアという偉大な祖国を擁護し、発展させること。これがロシア国民の使命というわけだ。こうした国民性は、政権が変わったらなくなるというものではない。従って、プーチン大統領を引きずりおろせばロシアが変わるとは言えない。

プーチン大統領が支持されるのは、ロシアの偉大さを擁護するその姿勢が共感されるからなのである。