プーチンの圧政より、西側への敗北を恐れる
プーチン大統領はそのことをよく理解している。
プーチン大統領が2000年に大統領に就任する直前に発表した「千年紀の境にあるロシア」という論文には「ロシア的理念」という章がある。ここで、根源的で伝統的な価値観として、パトリオティズム、大国性、国家主義、そして社会的連帯を掲げている。
国家主義とは、強力な国家権力がロシアにとって必要だということであり、社会的連帯とは、個人主義よりも集団的形態が優先されており、個人の努力よりも国家による支援が求められているということである。ここからロシアには強力な国家権力が必要だと結論付けている。
確かに、ロシア政府は言論の自由に制限を加えている。政府はウクライナでの戦争を「特別軍事作戦」と呼ぶことをメディアに強制しており、例えば昨年のノーベル平和賞を受賞したメディア「ノーバヤ・ガゼータ」紙は「作戦」に批判的であるとして活動停止に追い込んだ。
しかし、現時点でロシア国民が恐れているのは、プーチン政権による「圧政」ではなく、米国やNATOといった西側勢力に再び「敗北」することである。
ロシア人が重視する「誇り」と「偉大さ」
米政府は、プーチン政権はロシア国民の敵であると主張することで、ロシア国民の政府からの離反を期待しているが、世論調査の結果が示すとおり、ロシア国民にとっては、敵でありウクライナの惨状の責任者であるのは、米国でありNATOなのだ。
ロシア軍はウクライナ軍と戦闘はしているが、戦っている相手はウクライナというより、背後にいる米国とNATOということになる。
親露派であるドンバス地域やヘルソン州、ザポロージエ州を制圧することで、ロシアが取り戻しているのは歴史的な領土(18世紀のエカテリーナ2世の時代にオスマン帝国との戦争でロシア帝国が獲得した領土)なのではなく、冷戦での「敗北」で失った「誇り」、そしてロシアの「偉大さ」に他ならない。
米国とNATOがウクライナを明確にバックアップし続ける限り、こうしたロシア国民の認識を変えることは難しい。