「10兆円ファンド」の運用益を狙った統合か

そうした中、全国の国立大学でつくる「国立大学協会」は18年1月、各県に一つの国立大学を維持しつつも、法人再編の必要性を盛り込んだ提言案をまとめていた。さらに文部科学省は18年4月に、国公私立の枠を超えた大学再編を促す制度案を公表した。新たに設置する一般社団法人「大学等連携推進法人(仮称)」の下に、複数の大学がぶら下がる案が提言されている。

今回の東工大と医科歯科大の統合は、こうした行政の環境整備に応えた面が強い。とくに統合により研究力の強化が評価され、国から世界レベルの卓越した研究ができる「国際卓越研究大学」に選ばれれば、政府の大学ファンド(10兆円)の運用益の配分を受けられる。「大学ファンドは年間3000億円の運用益が予定されており、その何割を配分されるかにかかっている。大学統合はそのための条件づくりであり、分捕り合戦を意図した大型統合がこれからも起こり得る」(大手証券幹部)と見られている。

海外大学は自前のファンドで運営資金を回している

10兆円規模を目指す政府の大学ファンドは、欧米の大学に比べ研究力や専門人材が低下している日本の大学を資金面からバックアップするのが狙いで、科学技術振興機構(JST)の下に設置された。資産規模は当初4兆5000億円からスタートし、「大学改革の制度設計等を踏まえ、早期に10兆円規模の運用元本にまでもっていく」(内閣府)という。すでに種銭として政府出資5000億円(2020年度第3次補正予算)、財政投融資4兆円(2021年財投計画)が措置されている。

欧米の主要大学のファンドは巨額な資金を運用し、その果実を大学運営に活かしている。例えば、ハーバード大の約4兆5000億円はじめ、イエール大約3兆3000億円、スタンフォード大約3兆1000億円、ケンブリッジ大約1兆円、オックスフォード大約8200億円(いずれも2019年数値)を運用している。日本の大学もそれぞれ単独で資産運用しているが、これら欧米の大学に比べ、その規模は大きく見劣りする。このため国が音頭をとって官製大学ファンドを創設して、その差を埋めようというわけだ。

欧米対比で見劣りする日本の大学の運用だが、キャッチアップに積極的な大学がある。東京大学だ。