宣戦布告

2015年4月。狩野さんは妻宛の手紙を自宅の郵便受けに入れて家を出た。2月末には一人で暮らすためのアパートの鍵を受け取り、家具などを購入しては運び込むなど、狩野さんは2015年早々から着々と引っ越しする準備を具体的に進めてきていた。

3月に次男が高校を卒業。この日以降、狩野さんは一度も自宅に戻らず妻にも会っていないが、息子たちとは連絡を取り合い、時々会っている。

ところが2022年8月現在、狩野さんと妻はまだ、戸籍上は夫婦のままだ。

「正直、当時の私にとって、家のローンの自分の分をひと月約8万円払いながら、別居して賃貸住宅に住む、というのは経済的に厳しかったし、成人前の子供たちを置いて出ていくことも絶対にできませんでした。そこでやむなく私が選んだのは、高い家賃だと諦めてローンを払いつつ、子供たちに全力で愛情を注ぐことでした」

写真=iStock.com/Inna Dodor
※写真はイメージです

現在狩野さんは、家賃約8万円のアパートでひとり暮らしをしている。

手紙を見た妻からは、「冷静に話せます」というたった一言だけがLINEで届いた。

「離婚そのものには妻も異存はないと思います。争点は家の私の持ち分を妻に買い取らせることですが(6200万円のローン返済は同額を妻と折半)、妻が家と離婚を別モノと捉えてくれないため、話が進まないのです。とはいえ、私は夫婦といっても紙きれ一枚の話としか思っていませんし、もう二度と結婚はしないと固く誓っているので、離婚しないことの不都合はあまり感じていません」

正式な離婚に至らず宙ぶらりんの状態で、現在狩野さんは、「自分の遺産の2分の1が妻に行くことを阻止したい」と思っている。現在返済しているローン契約時には団体信用生命保険に加入したが、仮にローンの支払い義務者である狩野さんが死亡すると、その後の返済は不要になり、家はそのまま100%妻のものになる。だから、「買い取ってほしい」と考えているのだ。

ただ、逆の可能性もある。戸籍上配偶者であるかぎり、妻が死んだら家が100%狩野さんのものになる。宙ぶらりんを半ば放置しているのはそうした事情があった。