通じ合えない夫婦

長男が生まれると、狩野さんはミルクやおむつ交換などをした。

「長男が私の顔を覚え、私の後を追うようになった頃には、人生でいちばんの宝物になっていました。この頃、『有責配偶者にはならない』から、『絶対に親権は渡さない』に目標を変更しました」。

妻は産休と育休を取得。狩野さんは仕事から帰ると、風呂掃除をして長男を風呂に入れ、食器を洗ってから長男を寝かしつけた。

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そんなある日、「親になったんだからもう1つ保険に入って」と妻が言い出した。

狩野さんがOKすると、「保険会社の指定医による健康診断を受けに行こう」という。17時で終わる病院なので、狩野さんは午後休暇を取って健康診断に行こうとした。すると妻は言った。

「その前に、出産祝いのお返しを買いにデパートに一緒に行ってくれる?」

買物が終わったとき、17時近かった。妻は、「明日も休みとれる?」と言うが、「そんなに休めないよ」と答えると、「誰のための保険だと思ってるのよ!」と怒り出す。

狩野さんは、「お祝い返しなんて土日に買えばいいのに、なんで俺の休暇を使って買いに行くんだよ?」と思ったが、言わなかった。

「口論になれば、私はたいがいの相手を完膚なきまで叩きのめす自信がありますが、妻に理屈は通じませんから」

狩野さんはこの頃、「妻とはモノの考え方が根本的に違う」と悟り、「自分が我慢すればいいだけ」と諦めていた。

「我慢することにした理由は、私には『人生の目標というものがなかった』ということなんだと思います。食事を例にすると、食べるならなるべくおいしいものを食べたいとは思いますが、出されたものが口に合わなくても、私は“そういう味の食べ物だ”ただ“自分の口に合わないだけ”と諦めて食べます。結局私は、自分で自分の人生を終わらせてしまったようなものなのかもしれません……」