建設コストや人件費でも中国には到底かなわない

2008年の北京五輪でメインスタジアムとして使用された北京国家体育場(通称、鳥の巣)の建設費は約35億元(約500億円)といわれている。それに対して、21年に開催された東京五輪のために建設された新国立競技場の建設費には最終的に1500億円以上が投じられた。

さらに、ご記憶の読者も多いと思うが、当初は同スタジアムの設計がザハ・ハディドに依頼されていた。その設計に沿った建設費には、なんと約3500億円が計上されていたのだ。「鳥の巣」と比較すれば約7倍のコストだ。この格差の背景にあるのは日中間の人件費コストの圧倒的な違いだ。

小林邦宏『鉄道ビジネスから世界を読む』(インターナショナル新書)

そして、このコスト格差は、中国がタンザン鉄道の建設に際して自国から約2万人の労働者を派遣したことを考えれば、アフリカの地においても日本が逆転することはできない。新スタジアム建設の受注を巡って日本と中国が競合しても、コスト面では入札で中国が日本に負けることはない。それは、日本だけでなく、従来から世界銀行やIMFを通じてアフリカへの支援を続けてきた欧米諸国にとっても同じことだ。

このように、手始めにスタジアム建設を援助して、次に鉄道などのインフラ開発に手を伸ばしていくのが、中国からアフリカ諸国への開発援助を通じた経済的アプローチの常道だ。鉄道は空路・水路などでの輸送とは異なり、単に輸送量を飛躍的に増やして経済を活性化させるだけでなく、国家権力にとっては統治の面でも大きな意味を持つ案件といえる。

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