中国大使館員が来たら「中指を立てます」
私が見に行った8月の清掃で3回目だという。前出の通り、知人に誘われて来ただけで政治的な考えは持たない(体制への意見はない)年配の在日中国人や、他にブラジルやベトナムなど各国の外国人も多く参加しており、さらに日本人もいるので、客観的に見ればただの「よい活動」である。
だが、ここまで目立っていて大手メディアも取材に来ているなら、そう遠くない将来に中国大使館から『協力』を申し出られ、中華民族の優秀な美徳を体現する在日華人同胞としてプロパガンダに使われるのではないだろうか。清掃の終了後、中心メンバーの2人に、活動の場に大使館員が来たらどうするかを尋ねたところ、以下のように即答された。
「めちゃくちゃ罵倒します」
「中指を立てます」
本来の動機と主催者の心情はさわやかではないはずだが、結果的にはさわやかな活動がおこなわれている江戸川のカキ殻清掃作戦。今後も月に1回程度のペースで続けていくとのことである。
中国のことを「支那」と呼ぶ中国人たち
今回の彼らのような「支黒」系のネットユーザーは、ネタ半分本気半分という形ながら、“中国人をヘイトする中国人”という特殊なポジションの人々である。近年の中国のネット空間では、反中国的な言説に必ず噛みつき過激な反米・反日的言説を振りまく「小粉紅」(xiǎo fěn hóng)と呼ばれる中国版のネット右翼が主流のネット民意を形成しており、「支黒」はこれに対する戯画的なカウンターという立場だ。
なお、中国の反体制的かつ不謹慎系のネットユーザーは、中華人民共和国のことを故意に「支那」、中国人民を「支那人」、中国共産党を「支共」(=支那共産党)などというネットスラングで呼ぶ。
言うまでもなく、「支那」は第二次大戦までの日本側からの中国の呼称で、現代中国では最大の罵倒語だとみなされている。だが、それゆえにゼロ年代から香港や台湾の反中国系ネット文化のなかでしばしば使われ、やがて大陸の中国人にも伝播した。「支黒」という単語も、「支那」を「抹黒」(mǒ hēi;泥を塗る)するといった意味のスラングだ。
彼らの一部が、中国国内のネット上の愛国的・反民主主義的な言説を日本語や英語に翻訳して晒す「大翻訳運動」という行為を現在も行っているのだが、この運動にも「支黒」のカルチャーが強く反映されている。
「支黒」の場合は、民族的には同じ相手を「支那」呼ばわりしているので、厳密にはヘイトスピーチと呼べるか微妙なのだが、日本語で彼らの意見を読むとぎょっとするのも確かだ。いっぽう、リアルの本人たちはお行儀よく清掃活動をおこなっていたりもする。なんとも、現時点では評価の難しい人たちではある。