米ワシントン・ポスト紙は、日本は「銃の保持に関して世界でも有数の厳しい法が制定されている国」であり、なおかつ「政治的暗殺事件がここ数十年ではまれな国」だとしている。

同紙によると昨年発生した銃撃事件は、誤射と自殺を除いて日本全国で10件となっている。うち8件は暴力団絡みの事件となっており、一般市民が銃を手にし悪用するケースは非常にまれであることがわかる。

銃の入手プロセスも厳しく、狩猟目的でライセンスを取得する場合、多段構えの手続きをクリアする必要がある。筆記試験をパスしたあと、警察が申請者自身と家族の犯罪歴などを身辺調査し、また、適切な保管ロッカーが設置されているかなど自宅の検査がある。実技の講習も必須だ。

こうした厳しい規制を、今回の容疑者は銃の自作という手段で回避した。厳しい銃規制をかいくぐって発生した事件として、海外でも注目を集めているようだ。カタールのアルジャジーラの取材に対し、米テンプル大学日本校のブノワ・ハーディー=チャートランド非常勤教授(東アジア地政学)は、安全な日本で起きた稀有な事件だと説明している。

「間違いなく、東京でよくある光景というわけではありません。このような銃暴力は発生してこなかったのです。(日本の)殺人率は世界でも最も低い部類です」

2013年2月、ワシントンD.C.を訪問中の安倍晋三首相(当時)、CSISにて。(写真=Ajswab/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

銃撃は想定外では済まされない

公衆の面前で行わなければならない選挙演説は、要人警護のなかでも難しい部類に入るだろう。聴衆と距離を取りすぎたり、あまりに過剰に警護員を配置したりするような態勢は取りづらい。人々の共感を得て親しみを高めてもらうはずの街頭演説が、権力を誇示しているかのように捉えられれば逆効果だ。

日本では銃の所持が厳しく規制されている。自作の銃による発砲という特殊なシナリオは、警備上の課題として十分に考慮されてこなかったことだろう。何の恨み節も発声しない突然の射撃は、演習になかったとの指摘も出ている。予備動作のない凶行は、確かに対処を取りづらいところではある。

事件を振り返れば、その最大の問題は、1発目の発砲後に生じた数秒間の空白だろう。結果論ではあるが、警護員が至近に待機し、即座に安倍元首相を囲める態勢ができていれば、ターゲットを目視で狙えなくなった容疑者は2発目の発射を逡巡した可能性がある。

今回のケースが例外的な事件であることを願いたいが、技術の発達で銃の自作が不可能ではなくなった現在、これまでの予測を越えた事態も起こり得る。今後、日本の警察当局は、要人の警備計画の前提を再考する必要があるだろう。

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