襲撃の瞬間を捉えた映像を確認すると、1発目の発砲音が響き、ほどなくして白煙が流れ込んでいる。警護員らは音のした後ろ方向を振り返り、数秒間ただ立ち尽くしている。致命傷を与えた2発目の発砲と前後して、ようやく各員が動き出す。
近くにいた1人の警護員はブリーフケースで射線を遮ろうと試み、別の数人は容疑者を取り押さえている。このときすでに安倍元首相は演説台から降り、胸部から腹部を押さえるようにしながらうずくまっている。
ワシントン・エグザミナー誌は、警護員が最初に安倍氏の安全を確保するまで銃声から7秒を要したと指摘する。後述するが、アメリカのシークレット・サービスの場合、状況によっては4秒以内の到着でも失態扱いになるという。
トランプ氏の演説中に起きた制圧事例
同記事は2016年の米大統領選において、演説中の侵入者に極めて適切に対処できたとされる事例を挙げている。当時の候補者だったドナルド・トランプ氏の演説中、反対派とみられる人物が演説会場のバリケードを乗り越え、トランプ氏の立つステージに駆け上がろうとした。
このとき警護中のボディーガード集団は、侵入者の取り押さえをあえて一部のエージェントだけで行った。一方、候補者らの近くで待機していた別のボディーガード陣が素早く候補者を取り囲み、人間の壁を構築した。
同じ問題は、同年に民主党の予備選挙に立候補したバーニー・サンダース氏にも降りかかった。このときも同様、あらかじめ決められた手順どおりにボディーガードたちが反応し、人間の壁を築き上げることで攻撃者からサンダース氏を引き離している。
この戦術では、ボディーガードたちが身を挺して要人を護ると同時に、攻撃者の視線を遮る効果が生まれる。要人の正確な位置を把握できないようにすることで、発砲自体を躊躇させる作用をもたらす。
また、仮に暴徒たちが揺動部隊であった場合にも、この手法は高い効果を発揮する。侵入者を追い回した結果、警護対象者の周囲が手薄となるようでは元も子もない。人間の壁をつくる方式では、むしろ要人の周囲にボディーガードが集結する利点がある。
反面、奈良の事例では多くの警護員が被疑者の取り押さえに奔走し、安倍元首相を護ろうと立ちはだかった警護員は1名であった。仮定の話ではあるが、1発目の直後に人間の壁が構築されていれば、最悪の事態は免れた可能性もあるだろう。
シークレット・サービスなら4秒の空白で失態
ワシントン・エグザミナー誌はさらに、到着時間が長すぎると指摘している。同誌が検証したところ、1発目の銃声から最初の警護員が元首相の元へと到着するまでに、7秒を要していた。
参考までに、1992年のラスベガスで起きたロナルド・レーガン元大統領への不審者近接事件では、わずか4秒で到着したシークレット・サービスでさえ、警護の失敗であるとの厳しい批判を受けた。