嫉妬の対象になり孤立

さらに言えば、自分の性格や嗜好が知性を帯びていることが、クラスメートの嫉妬の対象になる可能性にも思い至った。

音楽室で教師に乞われてピアノを弾いた際はクラスメートの称賛を浴びたが、同時に同性の同級生の陰口も耳にした。いじめられたり、いじられたりするようなことはなかったものの、以降、B君は学校でピアノを弾くことはなくなった。

中学1年生の末、彼にとって学校は友情や信頼を交換する場ではすでになくなっていた。素の自分をさらけ出せる友達という存在が皆無だったのだ。

決して公立中学がダメだと言っているわけではない。

大半の者が公立中学に進学する地域なら問題は起きないかもしれない。同じ小学校に通っていた友人が同じ中学に進み、関係性が継続される可能性は高い。実際、現在も全国ほとんどの地域で公立中学進学者数が、私立中学進学者数を圧倒的に凌駕している。

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が、東京は事情が異なる。

2020年度、東京都文京区の私立中学進学希望者は50%弱、港区、中央区、渋谷区、世田谷区、目黒区が33%を超える(2021年10月発表、東京都教育委員会「小学校卒業者の進路状況」より)。富裕層の多いこれら地域以外でも、教育投資をためらわない程度の富裕なエリアに生まれ、内向的な性格ながらも公立中学に進んだ場合、友人関係はゼロからのスタートとなるケースが多い。見たくもないアニメを必死に見たり、やりたくもないスポーツを選択するなど、自分を殺して集団の関心に合わせ続けなければならない。

もちろん、私立中学に進んだ者でも、そこで新しい人間関係を築くストレスにさらされることもあるだろう。しかし、教室にいるのは大半がその中学を少なからず気に入った、同じ傾向を持つ者たちである。同級生・先輩は、同質の試験を受け、同質の成績を残している。見知らぬ者同士であっても自分とどこか似た部分を発見するのはずっと容易だろう。

親にまったく悪気はなかった

B君の両親は、内向的な性格の彼が小学校時代に何年かかけて見出した人間関係の意義を考慮せず、中学に入って人間関係に悩むことなど全く想定していなかった。

そこに、悪意も厳しさもない。ただ自分たちがそうだったからという理由で、自然に公立中学を選んだだけである。当のB君も公立中学で友人ができず不登校になるとは微塵も思わなかったに違いない。そもそも小学生が、人生の先に何が待っているかを推測する力など持ちえていない。

ゆえにB君の両親は、息子の不登校に対してその原因をつかめずにいた。いじめはない、担任も面談で会ってみれば、むしろ良い教師という印象を持った。ならばこれは謎である。そして謎の不登校は弟を震わせる。原因不明の不登校は、原因が明瞭な不登校より怖い。その公立中学には、何か得体のしれない悪い「気」があるのではないかと、誤解に満ちた勘違いをしてしまう。