データのないことにチャレンジできる人が強い

つまり、人間がAIよりも優れているのは「創造性」です。

もちろん、AIにも創作はできます。これまでにヒットした曲を膨大に聞かせたら、「それっぽい」曲を作ることはできるでしょう。しかしそれらは、過去のデータの延長線上のものであり、聴いたこともないような新しい音楽ではありません。

前田智大『灘→東大→MITに合格した私の「学びが好きになる」勉強法』(PHP研究所)

今後の社会で強く求められるのは、「見たこともない、聴いたこともないもの」です。変化の激しいこの時代、過去の延長線上にあるアイデアでは、とても対応できないからです。

「でも人間だって、過去の経験からアイデアを出しているのでは?」という意見もあるでしょう。たしかにその通りです。しかしそこにも、人間とAIとの間には決定的な差があります。

これが、AIに負けない二つ目の理由。人間は、AIのように膨大なデータを吸収しなくとも、少ない経験から「ピンとくる」力があるのです。

AIは、過去の消費者動向から「受ける商品のパターン」を見つけることはできても、新しいニーズにこたえるアイデアは出せません。なぜなら、データが少なすぎるからです。対して人間は、100万人に意見を聞かなくとも、数百人にリサーチするだけで、「こうすればいいのでは?」という仮説やインスピレーションが浮かんできます。

初対面の人と話すときにも、同じことが言えます。お互い「どんな人か」をなんとなく見定めて、何を話せばスムーズに会話できるか推測して、話すことができますね。

その推測がはずれて、失敗することもときにはあるでしょう。それでも、推測するときに必要とする情報量が「とても少ない」ことこそが、人間のすごい力です。AIなら、何億人分のデータを吸収しないとできない芸当です。

なぜ人間には、そんなことができるのでしょう。それは、私は人間が「生き物」として、少ない情報から正確に一般化をするという力を身につけているからだと思います。

生き物には生存欲求がありますから、危険を察知する感覚が備わっています。太古の人間は、飢餓や天災や猛獣など、命を脅かされる状況に事欠きませんでした。そんなとき、「ここは猛獣が出る」と100回経験するまでわからないようでは、命がいくらあっても足りません。少ないデータでパッと判断できる能力の源は、おそらくここにあります。

ちなみにこの能力、弱点もあります。テレビの街頭インタビューを見ていて、「世の中の意見はこうなのか」と思ってしまうことはありませんか? しかし、たまたまテレビが面白おかしく取り上げた数人の声など、サンプルとして少なすぎますし、偏りすぎています。安易に一般化するのは間違いの元です。

そう、人間の仮説やインスピレーションは、ときどき間違うのです。大量のデータから統計的に答えを割り出すAIのほうが、正答率は上でしょう。

しかし、社会を変えるような新しいアイデアを創出するとき、過去のデータはほぼゼロ。となれば、少ないサンプルから一般化するしかありません。間違ってもいいからけてみる。そして、失敗したときにそこから学ぶ。――これからの時代に活躍できるのは、そうした気概とインスピレーションを持つ人なのです。

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