このほか中国側は、冒頭に挙げた訪日中のバイデン氏の発言にも激しく反発している。中国のグローバル・タイムズ紙は6月12日、魏鳳和国務委員兼国防相が、これまで中国が米国に示したなかでも「最も強い警告」を発したと報じた。
魏氏はシンガポールで行った演説を通じ、「中国は間違いなく統一を実現する」と強調し、中国から台湾を分割しようとする者があれば中国軍は最後まで戦うとも発言している。
ウクライナ侵攻初期と重なる構図 泥沼化に懸念
大国が小国への侵攻に出る構図は、ロシアによるウクライナ侵攻の泥沼を想起させる。ここ数週間の動きではロシアの優勢が目立つものの、ウクライナ側も当初、ぬかるみの多い領土という地の利を得て善戦した。また、ロシア軍内部に貧弱な兵站ルートなど問題が山積したことで、結果として想定外の長期戦に至っている。
この構図は、中国対台湾にも重なる可能性がある。仮に台湾への武力行使に踏み切った場合、島国・台湾固有の地形に中国軍が足をすくわれる可能性は十分にある。ロシアとは異なり、侵略先との間には台湾海峡が横たわることから、補給にもいっそうの苦闘が予想される。国土を堅守したい台湾側は士気の維持の面でも有利であり、兵士数で上回る中国軍といえど、容易に攻略できるとは限らない。
一方で台湾としても、他国による支援という観点では、ウクライナよりも厳しい事態に直面しかねない。多数の北大西洋条約機構(NATO)加盟国と地続きとなっているウクライナは、隣接諸国からの輸送ルートを確保しやすい状況にある。
反面、海に囲まれ中国ミサイルの射程内に浮かぶ台湾においては、NATOの支援が一定の障壁に阻まれるおそれは否定できない。米軍が「距離の呪縛」に苦しみ、中国側も台湾海峡の攻略に手を焼くとなれば、結果的にロシア・ウクライナ間同様の長期戦へのもつれ込みは必至だ。
中国としても、多大な被害を予期しているとみえる。シンガポールでの演説において中国の魏国防相は、「平和的統一は中国人民の最大の願いである」と述べ、必ずしも武力解決にこだわる姿勢がないと言い添えた。「一つの中国」の固持は既定路線とみられるが、硬軟含めどのような策を繰り出すのか、今後の動向が注目される。