カナダのトラック運転手デモの意味

【斎藤】ほかの「選択肢」を考える思考が、停止してしまっていたから。僕らは目の前に提示された「選択肢」以外のものも、ちゃんと自分たちの頭で考え抜かねばなりませんね。

【堤】ええ、本当に。目の前にあっても意識を向けなければ存在しないのと同じで、思考も受け身のまま自動運転にしていたら、無意識に感情で反射的な反応ばかりするようになってしまいまからね。

今、SNSで流れてくる、プラットフォーマーのアルゴリズムが優先順位を決めるニュースだけに頼っていると、そのうち世界で本当に何が起こっているかがわからなくなってしまう。

【堤】斎藤さんは、2022年1月にカナダで起きたフリーダム・コンボイ運動をご存じですか? 日本ではほとんど報道されなかったのであまり知られていませんが、私あの時、各国の人々と連絡をとりあいながら、あの動きを毎日追いかけていたんです。

アメリカやヨーロッパにまで波及して、大きな影響を与えたあの運動は、コロナ対策を通して、国と民衆との関係や、情報格差が民主主義に与える影響、そして何よりもさっき私たちの話の中で出てきた、「選択肢」についてのヒントが山ほどつまった、まさに歴史的な出来事でした。

写真=NurPhoto/Getty Images
1月29日にオタワで始まったカナダのトラック運転手たちのデモは多くの市民に支持された。(=2022年2月12日、カナダ・オタワのダウンタウン)

報道が伝えなかったデモの本質

【斎藤】そうでしたか。きっかけはカナダのトルドー首相が、トラック運転手にコロナワクチン義務化を課したことでしたよね。それに反対する人々が、首都を目指しデモを行い、無視できないほどに広まっていった。

【堤】そうです。各国の報道では「ワクチン接種に反対するトラック運転手たちの暴動」という扱いが目立ちましたが、実は運転手の大半はすでに2回接種済みで、デモの中身は、新型コロナに乗じて過剰に国民の行動を規制しようとする政府への異議申し立てでした。

だから抗議者はトラック運転手だけでなく、コロナ禍で職を失った人や、医療従事者、少数民族など、現政権の強権的なやり方に反対する人たちが大勢参加していたのです。

デモに賛同したある教員はこう言っていました。「たとえコロナ禍でも、政府がそれを理由に憲法が保障する自由を制限しすぎたと感じたら、おかしいと声を上げるのは国民の義務だ」と。

【斎藤】外からではなかなか見えにくいですが、各国の反ワクチンデモの背景には、政府への日ごろの不満が圧縮されているのですね。