女性部長、古巣に戻り叫ぶ

オルビスは第二創業期と捉え、リブランディングを実行。西野さんが部長として任されたのは、事業回復の起爆剤となりうる大規模な商品改革だった。ブランドの思想を体現する商品をつくろう、新たな世界観を世に打ち出そうと懸命に取り組んだ。

リブランディング前の商品ラインナップ(上)とリブランディング後のオルビスユー(下)(画像提供=オルビス)

ブランド改革は、まず開発期間を要する商品企画が先行して取り組んでいくことが求められる。だが、西野さんが着任したときは、商品を支持するお客様が徐々に離れ、チームの雰囲気は暗く、メンバーも自信を失っている状態。上司の顔色を伺いながら仕事をしているメンバーもいて、「私は寵愛から外れちゃって……」という自虐混じりの会話も飛び交う始末。

「体制は変われど、本質的には『あの頃』となにも変わっていないなと。だから、まずはメンバーのモチベーションを上げることに力を入れて、同時に『上司の顔ではなくお客様の顔を見て』と訴えて回りました」

 

社内の“反発”に対して説明した2つのこと

モノづくりへの意識改革にも着手した。徹底して「既存顧客の声」に応える商品企画は同社の強みだったが、“内向き”志向が強くなり、企画から販売までが合理的で分業的だった。西野さんはミッションやビジョンからコンセプトを立てて商品に落とし込んでいくやり方を実践。市場で勝ち抜くため、内からだけでなく外からも積極的にヒントを見つけ、商品に込めた思いを自ら発信し、全社で一体感をもって前進する企業へと転換を図ったのだ。

もちろん、反発もあった。特に経験が長い社員ほど「せっかく承認がとれた商品はそう簡単に変えるものではない」と抵抗した。時代の空気感を反映し、商品の見せ方を変えれば「他社の真似をしているだけ」と嫌味を言われた。

撮影=遠藤素子

こうした大きな変化や改革に抵抗感のある“反発勢力”に対して、西野さんが言った言葉は2つ。1つは「まったく違う商品にするのではない。原点を大切にしつつ、市場や時代の変化に合わせて商品を“進化”させていくんだ」ということ。

「もう1つは、まずはお客様に選ばれるための土俵に上がるんだということです。そして、土俵に上がったその先で他社ブランドを凌駕するんだと。長くモノづくりをしてきた私たちが負けるわけがないと、とにかく熱く語り続けました」

このとき、西野さんが合言葉としてメンバーに言い続けていたのが「follow me」。自分についてきてほしい、この熱量に応えてほしいと願ってのことだった。だが、思い入れが強すぎて1人で突っ走っていたのかもしれない。「自分では手ごたえを感じていても、振り返ったら、誰もついてきていなかったこともある」と苦笑する。

撮影=遠藤素子
同社の最高売上記録を出した「オルビスユー」

組織を動かす難しさを痛感したが、それでも心が折れることはなかったそう。誰一人欠けることなく、自信をもって商品をお客様に届けていく状態を作りたかったから。持ち前のタフさでメンバーへの働きかけを繰り返し、約1年後、ついに新たな「オルビスユー」を世に送り出した。その成果は目覚ましく、発売からわずか2カ月で異例の販売累計67万個を突破し、同社のスキンケアシリーズの最高売上記録を更新したという。