ロシア軍が駄目な一方で、ウクライナ軍は的確に部隊を運用している

【井上】それも、ウクライナとアメリカ・イギリスとの情報共有の成果だと思います。空挺部隊を運ぶ輸送機やヘリコプターの大群が飛び立ち、どこに向かっているか情報が共有できれば、防空体制を敷くとか、部隊を迅速に集中するなどして、降着直後の弱点に乗じて撃破することができます。情報共有による作戦展開が、じつにうまくできたのだと思います。

渡部悦和、井上武、佐々木孝博『ロシア・ウクライナ戦争と日本の防衛』(ワニブックスPLUS新書)

【渡部】情報に基づいて、ウクライナ軍は的確に部隊を運用しています。ロシア軍の作戦のマズさが目立つ一方で、ウクライナ軍はすごく頑張っているという印象です。

【井上】渡部さんが指摘されたとおり、ロシア軍のマズさということでは、諸兵科協同作戦がまるでやれていないことが気になりました。

軍隊内には歩兵部隊、砲兵部隊、戦車などを有する機甲部隊など、異なる兵科があります。どれも単体では弱いので、それを統合して弱点を補いながら戦うのが諸兵科協同作戦です。これがうまく展開できないと、戦いに勝つことは難しくなります。

ところが、今回の戦争でロシア軍には、諸兵科協同作戦の欠片も見あたりません。精強と思われたロシア軍が、このような基本的な戦術行動がとれていないのはほんとうに不思議なことです。

125個用意した部隊も基本的な行動がとれていない

【渡部】それについてもう一度説明します。ロシア軍改革の目玉のひとつとしてロシアは、大隊規模の諸兵科連合部隊である「大隊戦術群(BTG)」を170個もつくりました。機械化歩兵大隊を根幹にして、戦車、防空、砲兵、通信、工兵、そして補給を担う後方支援の各部隊で構成されています。歩兵が200人、戦車が10両、装甲歩兵戦闘車が40両の組織です。

ロシア軍は、このBTGを125個(125個はアメリカの説、イギリスの説では120個)、戦争に投入しましたが、とくにキーウ正面では大きな損耗を出しました。じつはBTGにはいくつかの欠点がありました。

まず、歩兵の数が200人と少なすぎる点です。200人は自衛隊でいえば一個普通科中隊の人数です。大隊レベルであれば600人の歩兵は最低限必要だと思います。次にBTGは指揮・統制が難しい組織だというです。指揮官は機動と火力を連携させ、電子戦をやり、障害処理を行い、補給や修理などの兵站も行わなければいけません。そのためには優秀な指揮・統制システムが必要ですが、そのシステムが機能したとはとても思えません。

そして、ロシア軍がBTGの実戦的訓練をほんとうに行ったのか極めて疑わしいと思います。それは井上さんが指摘した基本的な行動をとれていない点からも明らかです。