コーチに対して暴言暴力の問題を感じる保護者は6割以上
では今はどうだろう。
事件から10年目を迎え、類似した事件の報道に対し、親の問題をえぐろうとする人はほぼいない。スポーツの指導現場におけるハラスメントが許されないことは、社会に浸透してきた。その一方で、見逃せない事実がある。
日本バスケットボール協会は2021年3月28日から5月31日の約2カ月間、U12(12歳以下)で活動する選手の保護者に対しアンケートを実施(有効回答数9332件)。同協会の公式サイトによると、集計結果は以下のようなものだった。
「暴言暴力について、他チームのコーチにおいて問題を感じている」と答えた人は、64.5%(よくある18.1%、たまにある46.4%)にも上る。「試合中に感情的な言葉や不適切な言葉を投げかける他チームの保護者」を見かける人は、36%(よくある7.7%、たまにある28.3%)と、こちらも決して小さい数字ではない。
コーチの暴力を問題視しながら「子供は成長している」と答える保護者
さらに、私が問題だと感じたのは、「試合中の暴言に問題がある」と答えながら、「子どもは楽しんでいる」と感じている人が27%もいることだ。加えて、「練習中の暴言に問題がある」と答えながらも「子どもは成長している」と考えている人も23%だった。
これについては、同協会も「保護者は暴言暴力を問題と感じながらも、試合での勝利や技術の向上、暴言暴力に耐えることを楽しさや成長と捉え、容認しているのではないかという問題がある」(公式サイト原文ママ)との見解を発表している。ただし、これを見て「バスケットはひどいね」で終わらせてはいけない。
他競技は同様かもしくはそれ以上に重篤だと私は思う。コーチの暴言暴力が6割以上、保護者の試合中の暴言が約4割。コーチ、親の両者は依然として、日本のスポーツ指導を暴走させる両輪になっている。なぜ親たちが暴力・性虐待にわが子を差し出すのか。そこにフォーカスすることで、社会のさまざまな課題も見えてくる。
それらに向き合うことで、平手打ちをする監督を見て青ざめていた息子のような子を無くせればと思う。(本文中の敬称は略します)