ストレスがかかると分泌されるCRF(コルチコトロピン放出ホルモン)を受け取るリセプター(受容体)にはR1、R2の2種類があり、R1は大腸に、R2は胃袋に発現しています。

胃袋にCRFが働くと、レセプターR2と結合して、胃の運動を抑え、胃からの食物の排出を低下させます。これが、胃が膨らんで張っているという状態につながります。ストレスがあると胃もたれや食欲不振、便秘が起きるということを意味していて、この病態が機能性ディスペプシアです。

一方、CRFホルモンが大腸のR1リセプターに結合すると、大腸の運動を亢進させます。胃とはまったく反対の働きで、おなかが痛くなり下痢になったりします。この病気が過敏性腸症候群です。同じ物質が場所によって異なる受容体の働きで違う作用をすることは、体内ではよくあることです。

精神を安定させるセロトニンが脳に腸の情報を伝達している

一方、腸から脳へ向かう「求心路」では、腸内細菌が大きな働きを担っていることがわかってきました。ストレス下で精神を安定させることで知られるセロトニンという神経伝達物質があります。うつ病を抑える大切な物質です。セロトニンは脳にあると思われがちですが、人体ではその9割が腸にあり、血液(血小板)に8%、脳にあるのは残りの2%です。

セロトニンはトリプトファンという必須アミノ酸から5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)を経て合成されます。このとき、腸内細菌がトリプトファンの代謝に関わっているのです。

たとえば、うつ病の人はセロトニンの分泌が少ないのです。セロトニンの材料であるトリプトファンは様々な食品に含まれるタンパク質なので、普通に食事をしていればまず不足することはありません。腸内細菌叢の異常により、セロトニン合成不全が生じたと考えられます。

セロトニンは、クルミ、バナナ、トマトなどの野菜類も産生する物質で、食品から取り込めますが、大切なのは腸での生合成なのです。

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腸内細菌が産生する酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸が、交感神経節を介して、脳に送られる情報に影響を与えていることが報告されています。さらに腸管には、迷走神経や脊髄神経などの脳・中枢に向かう神経(求心性神経)がたくさん分布しており、これらが腸管内部の情報を脳に伝達していると考えられています。

腸内細菌が関わって作られたセロトニンが、迷走神経などのセロトニンリセプターに作用し、脳へ情報を伝えていくと考えられるのです。