日本人の胃は消化機能が弱い形をしている
日本語の中にはまるで脳腸相関について、古代の日本人が知っていたのではないかと思えるような表現がたくさんあります。
たとえば、「腹の中」というのは心の中のことですし、「腹に据えかねる」は自分の感情を示します。「思う事言わねば腹ふくるる」は、まさに心のストレスがおなかの不調を起こす様子を示しています。
古代の人は、ストレスによっておなかの病気が生じることを知っていて、「腹が立つ」「腹が腐る」とか「はらはらする」という言葉を今に伝えたのではないかと考えられます。
胃袋の形や胃酸分泌にも人種の違いがあります。欧米人の胃は横に寝ている牛角形が多く「胃酸分泌能」が高い性質があります。一方、日本人の胃は縦に長い鈎形が9割を占め、胃酸分泌能が低いのです。おそらく常食する食べ物の差が形の差を生み、胃酸分泌の強さを左右していて、夏目漱石に代表される消化機能の弱い日本人が多いのは、この差によるのではないかと考えられます。
胃の上のほうを「噴門部」といい、食物やガスの貯留機能を持っている部位です。ストレス刺激があって胃にどのような症状が起きるかは、胃の運動や胃酸分泌能だけでなく、噴門部で食べ物を貯蔵する「リザーバー能」が関係しています。
ストレスなどの強い情動は、通常は胃腸の運動異常を引き起こします。内視鏡やCT、血液検査で炎症・潰瘍・がんなどの病変がないのに、胃に症状がある場合を、「機能性ディスペプシア(FD)」といいます。以前は慢性胃炎とかストレス性胃炎といわれたものにあたります。
FD患者における胃運動異常の発現を見ますと、日本人では、平均40%くらいが「排出能」の異常を示します。つまり、胃が縦に長細い鉤形なので食べたものが外へ出て行きにくく、いつまでも残っている状態が続きます。
これがいわゆる「腹ふくるる」、ストレスで腹が膨れている状態だといえます。
たくさん食べていないのに満腹感を感じる時がある理由
機能性ディスペプシアには別の要因も考えられます。排出能に問題のない人では、何が「腹ふくるる」を引き起こしているのでしょうか。
こうした人の消化運動をレントゲンで調べてみると、逆にものすごくよく動く状態になっているのがわかります。胃に知覚過敏があり、リザーバー能が低下して食物の貯留機能に障害がある状態です。
胃袋は内部に皺があって、食べ物が入ってくると大きく膨らみます。ところが胃に知覚過敏がある場合、少しの食物だけで胃がいっぱいになったと感じ、大きく膨らむことができないために、不快感や「おなかがいっぱいになって食べられない」という早期満腹感が引き起こされます。食べていないのに「腹ふくるる」になるのです。食べられないのでエネルギーが取れず体重が減少し、体力が低下するという症例もたくさんあります。
胃もたれを訴える多くの高齢者に、ストレス性の胃腸症が見られます。胃液の分泌や胃運動機能は年齢とともに低下することが古くから明らかで、軽い食べ過ぎ、飲み過ぎによっても胃腸の働きは低下します。
FDは増えていて、高脂肪の食事の摂り過ぎ、飲酒、喫煙など生活習慣との関連も見られます。また、ピロリ菌除菌がFDの症状改善に役立つという説がありますが、順天堂大学では、厳密な二重盲検試験によりピロリ菌除菌成功群と不成功群での比較を行い、FDの症状改善に差がなかったという結果を得ております。