また10年ほど前に制定された「固定価格買い取り制度」がカギを握る。これは電力会社が、他の事業体で発生させた電力についても固定価格で全量の買い取りを義務づける制度で、電力事業者はエネルギー価格の変動を心配せずに投資することができる。このためここ数年でドイツでも多くの独立事業者が育ってきた。

山間部にある「エビングホーフ農村共同体」。家畜の堆肥とトウモロコシを混ぜてバイオガスを発生させ、それらと発電機を使って、電気、熱を生み出している。地域で消費するだけでなく、余剰電力も全量を電力会社に売り、利益を得ている。

「インターネットのサイトを使って、電力会社の組み合わせを試算することができます。自然環境保全に関心の高い人なら、再生可能エネルギーの割合が高い事業者を選ぶこともできるのです」(ドイツ在住、ボン大学院博士課程の日本人留学生)

このように長年培われた環境意識の高さだけでなく、冷戦時から続く核の恐怖が合致することで、TV・新聞などで報じられた「3.11」が引き金となり、「原発ノー」に帰結したのだ。多くのドイツ国民にとって原発コストの論議より、「原発」は、今となっては一刻も早く消し去りたい「過去の遺産」なのだろう。

さらに、原発コストは現状の想定値よりかなり高いという意見もある。

「私たちは、原発に関するあらゆる費用を含んだ金額、約160円を“原発コスト”と捉えています。これは10年以上前に、原発推進派の保守政権が出した数字です」(シュシップナー氏)

これはあくまでドイツの一例にすぎないかもしれないが、原発は“安いから推進”というロジックは全世界的に通用しなくなっている。そして、日本でも既存の電力会社の形を大きく変える「発送電分離」が現実味を帯びようとしており、12年7月からは「全量買い取り制度」がスタートする。

※文中はすべて円表記に統一(1ユーロ=100円で計算)。

※すべて雑誌掲載当時

(撮影=渡邉 崇)