「白人優位主義ではないか」批判の声も上がるが…

それに、何よりキリスト教という地盤を共有しているので価値観も似通っており、文化的摩擦が起こりにくい。要するに、ヨーロッパ人であるという連帯感を持ちやすい。多くの自治体では、すでに子供たちは幼稚園や学校に通っているし、また、大人はなるべく早く就職口が見つかるよう支援されている。難民というより、すでに移民扱いである。

川口 マーン 惠美『移民 難民 ドイツ・ヨーロッパの現実2011-2019 世界一安全で親切な国日本がEUの轍を踏まないために』(グッドブックス)

難民に対して突然、親切になってしまったのはデンマークも同じだ。デンマークはシェンゲン協定の加盟国ではあるが、どの規定を適用するかは独自に決定できるという特権を有しているので、EUと完全に足並みをそろえる必要もない。これまでの厳しい「難民ゼロ政策」をあっさり覆し、ウクライナ人には難民申請を免除、2年ビザを出すことにしたという。子供たちももちろん学校や幼稚園に通える。

ウクライナ人に対する態度が、中東難民の時に比べてあまりにも親切であるとして、白人優位主義ではないかと批判する向きもある。そういえば、ポーランドやハンガリーは、EUの欧州委員会からどれだけ責められても中東難民には門戸を開かず、その理由として、イスラム教は文化的に遠すぎて、国内が不安定になるからという理由を挙げていた。冒頭に挙げた移民の暴動はその懸念を物語っている。しかし、今回、キリスト教徒であるウクライナ人には援助の手を差し伸べており、言行は一致している。

侵攻が終わったウクライナに人材は残っているか

ウクライナは貧しい国だ。だからこそ生活のために、多くの女性が3カ月間、家を離れてドイツに出稼ぎに出る。できることならそんなつらい思いをせず、職があり、努力次第で豊かな生活のできる国に、家族と共に暮らしたいと思うのは当然だ。そして、今ならウクライナのパスポートさえあれば、難民として入国でき、しかも永住も夢ではない。つまり、今、ウクライナを後にしているのは、焼け出されたり、夫を亡くしたりした本当に気の毒な人たちもいれば、今、このチャンスを物にしようと思っている人もいるだろう。

そして、優秀な人ほど、そのチャンスは大きい。しかも、安くて優秀な労働力が欲しいEUの多くの国が、それを望んでいる。

移民は、受け入れる国に経済的メリットをもたらすが、送り出す国には長期的にはあまり利はない。外国人が多ければ多いほど、差別がなくて良い社会だというのも妄想だ。移民は常に貧しい国から豊かな国に流れるので、新しい形の植民地主義が形成される危険さえある。

いつかこの戦争が終わり、破壊された都市や農村が復興するとき、ウクライナに人材の枯渇という深刻な問題が立ちはだかることを、私は今から懸念している。

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