「妊婦に適切な処置せず、新生児死亡」と言われても

医療の現実として、「赤ちゃんの死亡」はゼロにすることは難しい。2020年の厚労省集計では、分娩数約84万に対して704人の新生児死亡が報告されている。2018年のWHO報告では、日本の新生児死亡率(0.09%)と極めて少なく、世界第2位かつG7トップであり、世界平均(1.86%)の20分の1以下である。

しかし、昭和時代には比較的身近だった「赤ちゃんの死」が、平成・令和時代には少子化と相まってほとんど見聞きしなくなってきた。そのためか、今回のような事件が発生すると社会は大きなショックを受け、「帝王切開すれば助かったはず」「医療事故だ」「赤ちゃんを返せ、できないなら賠償しろ」といった騒ぎになりやすい。

記者会見で市長は「標準的な医療が提供されていれば、母子ともに健康に退院できたはず」と述べた。これに対して医師である筆者は「去年の正月に貯金をドルに換えておけば、今頃25%は儲かったはず」発言のような違和感を抱かざるをえない。「常位胎盤早期剝離の場合、帝王切開でも助からないリスクはある」「事故が起きてからなら何とでも言える」と。

市長の主張はとてもそのまま受け入れられないが、他方で現場の苦境もよく理解できる。

現在、産科施設の中には、「わずかでも胎盤剝離の兆候があれば緊急帝王切開」という方針も増えているが、それはそれで患者側から「自然なお産を希望していたのに手術を強要された」「手術で儲けたくてすぐ帝王切開される」などの風評が立ち、SNSなどで拡散されるリスクも高いからだ。

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