世界最大の犠牲を払ったというロシア人の記憶と自負

第2次世界大戦時の出生減は、戦争という非常事態によって大きく影響されていることは言うまでもない。人口ピラミッド上で日本を大きく上回るくびれが見られる背景には、ロシア(当時のソ連)における戦争による犠牲のケタ外れの大きさがある。

図表2には世界の主要国の第2次世界大戦による戦没者数を、戦死者と民間人死者とに分けて示した。ソ連の戦死者数は1450万人とドイツの285万人、日本の230万人を大きく凌駕して世界最多であったことが分かる。米国の戦死者は、欧州戦線と太平洋戦線の両方で戦ったにもかかわらず29万2000万人とそう多くない。ソ連の戦死者には、ロシアだけでなくウクライナを含む旧ソ連諸国を含んでいただろうが、主力はロシアであり、ロシア人の戦死者だけでも世界最多である点に間違いはない。

ロシアの戦勝記念日は5月9日で、1945年5月9日にナチス・ドイツ軍の降伏がソ連を含む連合国によって受理されたことを記念している。ウクライナへの軍事侵攻に関する成果をこの日までに示したいというロシアとプーチン大統領の意向が推察されているが、ナチス・ドイツをはじめとする同盟国側に対する連合国側の勝利に対して、最大の犠牲を払ったという記憶と自負がロシア人にとってこの日を特別な記念日にしていることを忘れるべきではなかろう。なお、時差の関係から西ヨーロッパ諸国では5月8日を記念日としている。

民間人犠牲者についても、日本では空襲や原爆投下、沖縄戦による犠牲者についての記憶と追悼がなお国民の心に刻み込まれているが、少なくとも人数的には、ドイツ、ポーランド、ロシア、中国では日本を大きく上回る数の民間人が犠牲になっていたことを忘れるべきではなかろう。