国内のIT企業を中心につくる新経済連盟(代表理事・三木谷浩史楽天グループ会長兼社長)は「経済活動の活性化や生活の質の向上の妨げとなりかねないこうした過剰規制への方向性は見直す必要がある」と強い懸念を表明。経団連や経済同友会も同調した。さらに、グーグルやアマゾンが加盟する「在日米国商工会議所(ACCJ)」も「米国企業が狙い撃ちされている」と批判の声を上げた。

経済界から陳情を受けた自民党からも、強烈な横やりが入った。中には「体を張ってでも止める」と息巻く議員もいたという。

あわてた総務省は、予定になかった「検討会」の追加会合を12月と1月に続けてセットし、IT企業の言い分を聞かざるを得なくなった。

写真=iStock.com/fotoVoyager
※写真はイメージです

経済団体から口々に規制強化反対をまくし立てられた結果、1月14日に示された事務局案は、当初の報告書案の中核部分がすっぽり抜け落ちたものになってしまった。

最大のポイントだった利用者情報の第三者提供については、サイトに説明を記載する「通知・公表」だけでOKとなったのである。既に、多くのサイトがプライバシーポリシーのような目立たないページに同趣旨の文章をチラッと載せているため、これでは現状を追認したにすぎない。

「消費者が安心安全に利用するために規制は必要」という消費者団体や市民団体の声はかき消され、新しいルールとうたった「本人同意の義務化」は名ばかりとなってしまった。

パブリックコメントを踏まえて2月に最終報告書がとりまとめられ、3月にはそのまま反映した改正案が閣議決定された。

経済界の言い分が全面的にまかり通ってしまったのである。

根回しもできなければ、抗戦もできず

積み重ねた議論をひっくり返された「検討会」の委員は、口々に「じくじたる思い」「もともとの問題意識が貫かれず残念」「もう少し押し返せなかったのか」と落胆の色をにじませる。「別の場を設けて、もう一度検討すべきだ」と腰折れした総務省への恨み節も聞こえてくる。

総務官僚は「利用者保護のルールが法案になっただけでも、一歩前進」と自賛するが、強がりにしか聞こえない。「しかるべきところに対し、説明不足だった」という自責のつぶやきこそ本音だろう。

土壇場の逆転劇が起きた背景について、事情に詳しい総務省OBは「IT企業が反発するのはわかっていたのに、まったく根回しをしていなかった」と指摘する。もっとも、「根回しをしようにも、財界と腹を割って話ができる役人がいなくなってしまった」とため息もつく。接待事件の汚名返上に向けて威儀を正そうとするあまり、情報通信業界とは縁の薄い人材ばかり起用したことが裏目に出たというわけだ。

結局、事前の根回しもできなければ、後の逆襲にも抗し切れなかった。

電気通信事業法改正案の“挫折”は、まさに接待事件が招いた悲喜劇といえる。