接待事件による人材枯渇が招いた悲喜劇
総務省の情報通信行政を担ってきたのは旧郵政官僚の系譜で、現在の陣容をあらためてみると、そのあたりの事情がよくわかる。
トップの竹内芳明総務審議官は初の技官で、接待事件で辞職した谷脇氏のような人脈づくりに精を出すタイプとはいえない。電気通信事業法を所管する二宮清治総合通信基盤局長は、国際畑で政策通だが内閣府の勤務も長かった。北林大昌電気通信事業部長は、郵便事業に精通しているもののIT政策とは縁が薄いといわれる。
何より、谷脇氏が総務省を去った後、総務省の事務次官を狙えそうな有望な人物は当面、見当たらないという。それは、経済界や自民党と渡り合えるだけの大物官僚がしばらく輩出しないということでもある。人材の層が薄くなってしまったことは一目瞭然だろう。
ネット利用者が安全にサービスを利用できる環境づくりは、今やデジタル社会の必須条件で、ますます重要性は高まっていく。
EUは4月23日、ネットに流れる偽情報など違法コンテンツの排除を巨大IT企業に義務づける「デジタルサービス法案(DSA)」の策定で合意したばかり。世界中から批判を浴びるグーグルやアップルは、「クッキー」の制限や廃止に舵を切ろうとしている。
総務省の接待事件の傷が癒えるには時間がかかりそうで、枯渇してしまった人脈は一朝一夕には築けない。だが、「ネット社会の番人」であるべき総務官僚は、これからのネット社会を担う優秀な人材を次々に育成し、情報通信行政のプロ集団として変貌することが求められている。