「欲しいものが届かない」とブチ切れていたけど…

この動画に限らないが、上海がロックダウンになって以降、高齢者の悲惨な食料事情、自殺した人の家族の赤裸々な告白など、中国国内では社会の弱者に関する報道が増えた。中でも、前述したように、厳しい条件で働く出稼ぎ労働者たちの存在が、中間層以上の上海人の心を強く揺さぶり、SNSでシェアする人が増えている。

前述の動画をシェアした女性はいう。

「これまではとにかく自分の仕事が忙しかったし、デリバリー配達員たちのことを気にかけたことなど一度もなかったんです。ただ料理や食材を運んでくる人というだけで、彼らの生活や人生になんて、何の興味もなかった。自分はただもっと上昇したい、金持ちになりたいと望んでいた。でも、家に閉じこめられて、食料確保さえままならない今、配達員さんの縁の下の努力で私たちの毎日が成り立っているのだと知り、何だか申し訳なくて、感謝の気持ちがこみ上げてきました。そして、彼らの境遇に泣けてきました」

さらにこう続ける。

「ロックダウンの後、しばらくの間は『あっちのマンションのほうが、うちより配給が早いじゃないの? 不公平だよ』とか『朝6時からネットで注文しているのに売り切れ。一体どうなっているんだ?』とか、いちいちブチ切れていたのですが、私は家のパソコンで仕事をしていて、給料はちゃんと振り込まれている。SNSの悲惨な投稿をたくさん見て、私はこの広大な上海でかなり恵まれているほうなんだと、初めて気づかされたのです」

出身地、学歴の格差が日本以上に大きい

確かに、日本のメディアで報道される上海の人々の様子も、ほとんどが中間層か、それ以上の人々を対象としたものだ。政府の食料配給が滞っていて、あちこちのマンションで苦情や殴り合いなどトラブルが起きていること、団体購入(ネットでの共同購入制度)で食材がやっと買えたことなどが話題の中心だ。それ以外、下層の人々の生活ぶりについて報道されることはあまりないし、あってもネガティブな視点から捉えたものだけだ。

だが、物質的に非常に豊かな上海人の生活を支えているのは、まぎれもなく、彼らのような出稼ぎ労働者たちだ。日本では、どのような職業であっても、地元の人と地方出身者の両方が混ざっていて、そこには学歴や出身家庭の経済力の差などはあるものの、他に大きな差はない。

だが、中国社会は日本とは大きく異なる。とくに上海や北京、広州などの大都市では、地元の人は単純労働などの仕事に就くことは少なく、外来の人が末端の仕事を担うという社会構造になっており、それが定着している。