収入だけでなく「情報格差」も深刻

それに問題は収入面の格差だけではない。彼らの多くは中学校卒業などの学歴で、若者ならばスマホをある程度使いこなすことはできるものの、上海に住んでいても上海人に「友人」と呼べる人はほぼいない。田舎の友人や家族とSNSでつながってはいるが、上海の人々と同レベルの情報を入手したり、きちんとした情報を検索したりすることも難しい。

収入格差だけでなく、情報格差が非常に大きいので、その結果、雇い主からの厚意でもない限り、ネットを駆使して食料確保をするという点でも、地元の人々とは大きな差がついてしまうという問題が起きている。

ロックダウンに入って以降、印象的な出来事があった。私の上海の知り合いが誕生日を迎え、豪華なバースデーケーキを家族で囲んでいる写真をSNSに投稿していたのだ。その人もとくに富裕層というわけではなく、中間層よりやや上の層に入るくらいだと思うが、高い配送料(一説には1000元以上=2万円以上ともいわれる)を支払って、有名パティシエが作ったケーキやワインなどを入手していた。だが、その一方で、政府の配給以外に、食材を購入できず、飢えと戦ったり、感染リスクがありながら、肉や野菜を配送したり、ゴミ収集をする労働者もいる。

そんな人々と中間層以上の人々は、これまでは店員と顧客、正社員と工場労働者といった関係で、ほんの二言三言の会話がある程度で、ほとんど「別世界の人間」だった。

「虫けら」を見るような目で眺めていたが…

上海にはいわゆる貧民街のようなエリアはなく、富裕層が住むエリアと下層の人々が住むエリアについて明確な区分けはない。どちらかといえば富裕層はこの区に多く住んでいるといった、大まかな区分けがある程度だ。そのような富裕層、中間層、下層の人々が入り混じる生活環境で、中間層以上の人々は、労働者がどのような住居に住み、どのような暮らしをしているのか、これまでは前述のように興味も関心もなかったし、中には出稼ぎ労働者に対して「虫けら」を見るような目で見ていた人もいた。

だが、ロックダウンという未曽有の経験により、自分たちが置かれている状況を客観視したり、自分たちの国の格差に疑問を持ったりして、SNSで動画をシェアしたり、同情したりする人が増えた。また、それだけでなく、彼らに手を差し伸べる人も増えてきた。