現在は“米国一人勝ち”の状況だが…
3月、中国では消費者物価指数が同1.5%上昇した。中国でも企業物価指数と消費者物価指数の上昇率のギャップは大きい。中国の消費者物価を品目ごとに見ると、ガソリンなどの価格は上昇しているが、消費財など生活に欠かせないモノの価格上昇が抑えられている。不動産バブル崩壊、ゼロコロナ対策の徹底による動線の寸断、さらにはIT先端企業への締め付け強化による株価下落などが中国の消費者心理を冷え込ませ、消費が伸び悩んでいる。
ユーロ圏でも3月の消費者物価(速報)は同7.5%と、企業物価との乖離が大きい。増加するコストを価格に転嫁できない状況が続けば、いずれ企業の業績が圧迫されるだろう。このように考えると、足許の世界経済において、米国は相応の強さを維持しているが、それ以外の国と地域の景気の弱さが目立つ。それが米国と、それ以外の国と地域の消費者物価指数の上昇率の違いに表れている。
ウクライナ情勢やコロナ禍が落ち着いても物価高は続く
世界の物価の展開は、いつまで、ウクライナ危機やコロナ禍が続くかに影響される。一つのシナリオとして、ウクライナ情勢やコロナ禍が徐々に落ち着いてくると、世界全体で消費動向は緩やかに回復することが予想される。その一方で、供給制約が深刻な状況は続くだろう。需要が回復することによって、世界のインフレ懸念は高まるだろう。
それとは逆に、情勢改善に時間がかかる展開も想定される。ウクライナ情勢が深刻化すれば、世界の分断はいっそう深まるだろう。その場合、エネルギー資源などの商品価格は上昇し、供給制約も強まる。各国の企業物価は一段と上昇する可能性が高い。コストプッシュ型のインフレ圧力は高まり、米国の企業であってもコスト転嫁を進めることが難しくなるだろう。物価上昇が鮮明化すると同時に各国の企業業績が悪化するとの懸念が世界的に高まるだろう。現時点で、短期のうちに世界の物価上昇圧力が低下する展開は想定しづらい。
それに加えて、FRBは金融政策の正常化(利上げとバランスシート縮小)を急ぐ。それは米国経済に負の影響を与える。今後、米国では追加の利上げや流動性の吸収が同時に実施され、長期金利は上昇するだろう。