「診療ガイドライン」作成にかかわる医師を狙い撃ち

実は、東京大学医学部(大学院医学系研究科)の教授ともなると、各専門学会の理事長や幹部を務めることが多く、診療ガイドラインの作成にかかわることも少なくありません。とくに、患者のボリュームが大きい高血圧や高コレステロール血症(脂質異常症)、糖尿病といった病気は、その基準値が変わるだけで、薬を飲む人たちの数も大きく変わります。

たとえば、中高年の高血圧の基準(上の収縮期血圧)は、昔は「年齢+90」とされていました。この基準でいくと、50歳なら上が140まで、70歳なら160までは正常範囲内となります。しかし、高血圧の基準値は年々厳しくなり、年齢にかかわらず「上が140まで」となりました。それによって、高血圧の薬を飲む人が増えたのです。

また、製薬会社が期待するのは、従来の安い薬ではなく、薬価の高い新薬を多く使ってもらうことです。高血圧薬の場合、利尿薬やカルシウム拮抗薬などの古くからある安価な薬よりも、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)などの比較的新しく薬価の高い薬を使ってもらったほうが儲けになります。

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学術集会の開催費はどこから出ているのか

つまり、製薬会社は、新薬を販売するのに有利な基準値や治療指針になることを期待して、診療ガイドラインを作成する専門医学会で大きな力を持っている教授の診療科に、奨学寄附金を支払うというわけなのです。

もう一つ、「学術研究助成費」として製薬会社が支払っているのが、「学会協賛金」です。各医学会は年に1回、各地の大学持ち回りで、大規模な「学術集会」を開きます。この学術集会は、有力な学会になるほど高級ホテルや大規模なコンベンションセンターなどで開かれるのですが、その費用はどこから出ているのでしょうか。

会員からの会費もあるのですが、製薬会社からの協賛金が開催費に充てられているのが実態です。

製薬会社は、タダでお金を払っているわけではありません。学術集会の開催プログラムを見ると、製薬会社が共催する「ランチョンセミナー」という項目があります。これは、無料のお弁当を食べながら、大学教授など有力な医師の話を聞くというものなのですが、ここで製薬会社が聞いてほしい新薬の情報などが話されます。