高級ホテルなどで行われる「医療系の学会」。この開催費用はどこから出ているのか。ジャーナリストの鳥集徹さんは「会員の会費に加えて、製薬会社からの協賛金が開催費に充てられている。ほかにも医学部の教授には、研究費や奨学寄附金といった名目で多額の資金が流れている。これほど特定の業界から利益供与を受けている学問領域は他にない」という――。

※本稿は、鳥集徹『医療ムラの不都合な真実』(宝島社)の一部を再編集したものです。

お金の札束を持つ男性医師
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製薬会社の「研究費・開発費」支出トップは109億円

製薬会社から医療機関や医師に入るお金には、いくつかの種類があります。まず大きいのが「研究費・開発費等」です。製薬会社は、大学病院やがんセンターといった基幹病院に依頼しなければ、治験を行うことができません。その治験にかかる費用や製造販売後の臨床試験・データ収集のための研究費を製薬会社が支払っています。これが大学病院や基幹病院の経営を支える大きな収入源の一つとなっています。

どの製薬会社がどれくらいお金を払っているのか見てみましょう。2018年の支払額1位は小野薬品工業(免疫チェックポイント阻害薬で有名なオプジーボの製造販売元)で、なんと約109億円もの巨費を支払っています。2位が第一三共で約79億円、3位が中外製薬で約69億円、4位が日本イーライリリーで約69億円、5位がベーリンガーインゲルハイムで約62億円です。

そしてもちろん、新型コロナワクチンの製造販売元も多額の研究費を支払っています。アストラゼネカ社は7位で約50億円、ファイザー社は13位で約33億円、武田薬品工業(モデルナ社のワクチンの日本での製造販売元)が約33億円です。

交付金が減額されている国立大学にとって貴重な財源

独立系ジャーナリズム組織Tansa(旧・ワセダクロニクル)のページ「製薬会社別 支払いランキング」には、製薬協に所属している80社のデータが掲載されています。それをすべて足し合わせると約1407億円となります。これだけのお金が、全国の大学病院や基幹病院に入っているのです。

たとえば、医療界の頂点に立つ東京大学の2020年度の財務情報を見ると、医学部附属病院の経常収益699億円のうち、「受託研究等収益等」は44億円と6.3%を占めていました。これは、国から医学部附属病院に支給されている「運営費交付金」50億円(7.3%)に匹敵する金額です。決して少ないとは言えません。

実は国立大学は、国の直轄経営から2004年に独立行政法人となり、自主独立での経営努力が求められるようになりました。それにともなって、運営費交付金が年々減らされることになりました。大学の医学部附属病院にとって、もっとも大きい収入源は医業収入(診療報酬)ですが、それを増やすのにも限界があります。ですから、製薬会社からの受託研究費は、運営費交付金の減収を補うものとして、とても貴重なものなのです。