オーストラリア産WAGYU

ドバイの高級ホテルでレストランに入ったら、肉料理のメニューに「WAGYU」を見つけたことがある。日本の和牛だと思って注文する人もいるだろうが、実はオーストラリア産のWAGYUだ。

オーストラリアで「WAGYU」ブランドを登録したのはビーフシティという会社だ。私が訪問したとき、同社はエルダーズIXLという大手の農業関係商社の傘下にあったが、オフィスの壁に日本の全畜など食肉商社からもらった感謝状がたくさん飾ってあった。日本の市場にも入っているのだろう。

日本で品種改良された和牛ではなく、和牛のもとになったアンガス種の牛肉で、和牛と同じように肥育期間が長い。オーストラリアには、本物の黒毛和牛もいる。タスマニア州のロビンス島は、見渡す限りの大規模農場で、「和牛アイランド」と呼ばれている。ステーキを食べたら驚くほどうまかった。しかも、値段は国産和牛よりはるかに安い。

オーストラリア、ニュージーランドと食の安全保障条約を結べば、安くておいしい牛肉、牛乳、乳製品が安定的に輸入できるだろう。前述のバンクーバー港のような不測の事態に備えて、複数の国と食の安全保障条約を結んでおけば、リスクを分散できる。

オーストラリア産の安くてうまい牛肉だけでなく、ブロッコリーやアスパラガスなど、知らないうちに日本の市場に入っているものもある。消費者が意識しないで口に入れているのだが、輸入業者が“ホクレン(ホクレン農業協同組合連合会)”のように生産側の仕事をしているところが多いからだ。消費者の“国産信仰”が、実態を見えにくくしている。この仕掛けの問題は、安く海外から仕入れても国産品と同じくらいの値段で売るため、消費者のためには全然なっていない点だ。

典型的な例がワインだ。18年まで日本のワインには「国産ワイン」と「日本ワイン」があった。

ラベルに「国産ワイン」と書いてあっても、日本で育ったブドウからできたワインだと思ってはいけない。海外から濃縮果汁やバルクワイン(ボトルではなくタンクに詰められたワイン)を輸入し、日本国内で混ぜたり水を足したりしたのが「国産ワイン」だ。つまり、国内でボトリングしたという意味でしかない。一方、国産ブドウのみを原料として国内で製造されたのが「日本ワイン」だ。同年にワイン法が施行され、国内でボトリングされた輸入品は「国内製造ワイン」と表示されるようになった。それでもまだ、国産ブドウからできたと勘違いする消費者はいるだろう。

22年2月に出荷が停止された熊本県産のアサリも同じだ。農林水産省が21年10月から12月末までに販売された「熊本県産」のアサリをDNA分析したら、97%が中国産や韓国産の疑いがあった。熊本県産アサリは、全国シェアの8割近くを占めるブランドだ。しかし、20年の年間漁獲量が21トンだったのに、全国で販売された“熊本県産アサリ”は推計2485トン。実に約120倍。