現在に至るまで、制度の整備は続いている

フランスは歴史的に出産を奨励する社会で、匿名出産の制度化以前から、自ら養育できない子供を秘密裏に孤児院・養育院に託せる仕組みが普及していた。しかし産後に委託する方法では、母親側の妊娠・出産のリスクをカバーできない。その懸念から匿名出産の整備が進み、出産した医療施設で誕生直後の子供を保護する体制が整えられていった。第二次世界大戦中の1941年には、女性の救済手段として匿名出産時の医療費無料が定められている。

以来、今日に至るまで、生む女性と生まれた子の命と健康、人権や自己決定権などの論点に基づき、法律と制度の整備・改正が続いている。1993年には、フランス民法典に匿名出産制度が正式に記載された。21世紀に入ってからの大きな改正は2002年で、全国の医療施設で匿名出産に対応するよう規定。また同じ年、匿名出産で生まれた子の「出自を知る権利」に関する政府系機関「個人的出自へのアクセスに関する国家諮問委員会(以下CNAOP)」が創設された。子からの出自開示要求の受け付けと、生みの母親の身元情報調査・開示手続きを担い、母親の自己決定権と子供の権利に、一定の折り合いをつける形で運用されている。

写真=iStock.com/Eloi_Omella
※写真はイメージです

分娩時に意思表示があった時点でスタートする

現在の制度下では、分娩時に母親からの意思表示があった時点で、匿名出産がスタートする。出産医療費は通常の分娩と同じく無償化され、女性側に費用負担は発生せず、公庫から医療機関に直接支払われる仕組みだ。

女性から匿名出産の意向を受けた産科施設は、子供の法的身分やその後の親子関係、子の養育に関して、女性に説明せねばならない。同時に国から親への子育て支援に触れ、もし女性が自分で育てたいと翻意した場合に必要な情報を、この時点で伝える。

誕生後、子供は「国家後見子」、つまり国が後見人となり養護される未成年者として、分娩施設のある自治体に生後5日以内に出生届が出される。生後2カ月間は「仮」の届出で、生みの親がこの期間に翻意した場合は実子として認知でき、親子関係が成立する。