年間の匿名出産数は約600前後

「フランスではここ10年、年間の匿名出産数は約600前後で推移しています。そのうち生後2カ月以内に生みの親が翻意して子を認知するケースは、およそ100件。この場合、母子には生後3年間、特別な育児支援が提供されます」

前述の国家諮問委員会CNAOPのブルリー会長はそう語る。そのほかに、子供が望んだ際に自らの身分を明かす事前開示同意をCNAOPに与える女性が約100名。完全に身元を秘匿する出産は、年間約400件だ。

「匿名出産の際、母親には『密閉封書』の作成を提案します。出産の経緯や健康保健証番号など、母親の身元確認の手がかりになる情報を記した封書です。出産から数十年後に子から要望があった際、この封書の情報を使ってわれわれが母親に連絡し、開示への同意を確認します。前述の事前開示同意は出産時の決断ですが、密閉封筒はそれとは異なり、未来の時点での状況によって、母親に開示の可否を選択してもらうことができます」

フランスの制度では、生みの親と子のつながりや出自の開示に、複数の可能性を与えているのだ。

母親の手に把握反射する新生児
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養子縁組の養親と「実の親子」になる人が多い

生後2カ月で「国家後見子」の身分が定まった子供たちはその後、乳児院もしくは里親・養親家庭で育つ。15歳までは養子縁組が可能で(場合によっては21歳まで可能)、フランス国内だけではなく、国際養子縁組(外務省管轄)も対象となっている。

「匿名出産による国家後見子のほぼ全員が、18歳前に、裁判所の宣告を経て養親と実の親子となる『完全養子縁組』を結びます」

フランスの養子縁組制度では、養親になるには原則26歳以上との年齢制限がある。加えて、子供との年齢差(15歳以上)、カップルの場合は1年以上の同居歴など、シチュエーションごとに条件が決まっている。また子供が13歳以上の場合は、子供本人の同意を公証人の前で示すことが必要だ。(出典:フランス公益サービス情報サイト

2013年の同性婚法制化の際、同性カップルにも養子縁組の道が開けたが、実際に養子縁組が成立したケースはまだ少ない。