「野球を通じた教育」に重点を置きすぎていた

【藤田】日本の学童野球では「野球を通じた教育」みたいなことがよく言われますもんね。

【辻】時間やマナーを守ることとか、僕らが野球で当たり前に言っていることを向こうは全く教育していないんです。そんなことよりも野球が始まったら野球を楽しむ、遊びと同じように野球を楽しむ。そっちを大切にしているんです。

【藤田】なるほど。

【辻】僕らが日本でやってきたことは確かに間違いではない。野球を通じて野球以外のこともすごく勉強できている。でもあまりにも教育とか規律とかに走りすぎてしまっているんじゃないかって、イタリアでそんなことを思ったんです。

【藤田】足を揃えて走るとか、道具をきれいに並べるとかよりも、野球そのものをやった方が絶対に楽しいですし上手くもなりますもんね。

【辻】そうなんです。だから日本に帰ってきてからは、練習に遅れて来てもいいよ、ということにしたんです。野球をやりに来ているのだから、時間までに来るかどうかっていうのは野球とは関係ない。野球がやりたい時間に来たらいいよと。挨拶とか整理整頓にしても、それは野球とは別のものだから各ご家庭できちんと教えてくださいねというふうに。

撮影=株式会社apricot.h、宇田川淳

【藤田】野球以外の部分を少なくして、野球をすることにもっと集中していったんですね。結構思い切った方針転換ですね。

【辻】そうですね。保護者会の規約にあった野球以外のこと、全部消しましたからね。だからペラッペラの規約になりましたよ(笑)。でもいきなり今のような形にしたのではなくて、試行錯誤しながら実験的にやっていったという感じですね。

【藤田】イタリアから帰ってきて、子ども達には「スポ根は止めるぞ!」みたいな話はされたんですか?

【辻】しましたね。子ども達は「やったー!」という感じで喜んで。めちゃくちゃ明るくなりましたね、練習の雰囲気が。

【藤田】保護者の反応はどうだったんですか?

【辻】一緒にイタリアに行った方は理解してくれました。でも行っていない方は「そらアカンやろ」みたいなね。

【藤田】「アカン」というのは勝てなくなる、ということですか?

【辻】それもあると思いますけど、どちらかというと、野球を通じて挨拶、礼儀もしっかり身に付くと思って子どもをチームに入れたのに、だらしない子になってしまうとか、そういった理由からだったと思いますね。