「恐ろしかった」と、寡婦のガラクティヨノワは言う。「こんなことは聞いたことも見たこともない」

24日の残虐な出来事は、彼女にとって自分の国とロシアの結び付きを断ち切るものだった。「以前はいい人たちだと思っていた。今は、彼らは戦争がしたいだけ」

この瞬間にも多くのウクライナ人がロシアの侵攻から逃れようと移動しており、近隣諸国は避難民の流入に備えつつある。空爆はウクライナ全土に及び、国連難民機関の推計によると、10万人以上が荷物をまとめて住む家を離れ、国内の他の地域を目指し、あるいは国を出ようとしている。

EU圏との国境には長い列が伸びている。スーツケースを抱え、ポーランドやハンガリーに歩いて渡ろうとする人もいる。

戦闘はウクライナ全土で激しさを増している。南東部の港湾都市マリウポリも砲火を浴びた。ウクライナ内務省の発表によると、キエフ地方でロシア軍のヘリコプター1機と国籍不明の3機が撃墜された。

ジョー・バイデン米大統領は24日午後に、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナを越えて進むだろうと警告した。「彼の野望はウクライナよりはるかに大きい。旧ソビエト連邦の復興を目指しているのだ」

「世界中が私たちの味方だ」

長引く包囲と残忍な襲撃が迫り来るハリコフの街だが、希望はまだ鎮圧されていない。

アレクサンデルとカーチャ(安全を危惧してファーストネームのみ)は7年前に、東部ドネツクで暮らしていた家を追われた。若いカップルは今、さらに大きな惨事に直面しているが、挑戦的なほど楽観的だ。

「おじけづきそうになるけれど、私たちは前を向き続ける」と、ITサポートの仕事をしているアレクサンデル(27)は言う。「ドネツクは14年にあっけなく陥落した。でも、ここでは守られていると感じる。どういうわけか、あまり落ち込んだりしていない」

「ドネツクでは、私たちはとても孤独だった」と、コンピュータープログラマーのカーチャは言う。「今は全世界が私たちの味方だと、心から思える」

もっとも、2人は今のところ、ハリコフからの脱出を考えることはできない。「あまり余裕がない」と、アレクサンデルは肩をすくめた。「脱出しようと思ったら、資金や親族の援助、行き先の計画、仕事の当てといったことが必要になる。私たちは勇敢なのか、あまり賢くないだけか。正直なところ、今はただ、戦争に鈍感なだけかもしれない」

From Foreign Policy Magazine

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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