事実を事実として認める姿勢

準備室は深夜に県幹部と連絡をとり、ブルーギルの記述への対応を協議した。

小田部雄次『皇室と学問』(星海社新書)

「ここまで言っていただくのは忍びない。削除の意見を伝えては」との声もあったが、最終的にはそのままで決定した。

そして11月11日の式典当日、天皇は1300人の出席者の前で、ブルーギルを持ち帰ったことを語り、「当初、食用魚としての期待が大きく、養殖が開始されましたが、今、このような結果になったことに心を痛めています」と述べた。

会場はどよめき、外来魚問題に悩まされてきた漁師たちは顔を見合わせて「陛下も心配してくれていたんだ」と口にした。当初の原稿は、「おわびの色合いがもう少し強かった」との証言もある。

外来魚の食害が知られていなかった時代のことでもあり、むしろ、「勇気ある発言」として事実は事実として認めるという科学者らしい姿勢が、多くの人の心に残った(「天皇陛下のブルーギル『持ち帰り謝罪』発言 舞台裏を証言」『京都新聞』2019年4月26日)。

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琵琶湖にブルーギルを入れたきっかけ

琵琶湖での式典の1カ月後の12月20日、宮殿石橋の間で開かれた天皇の誕生日に際する記者会見でもブルーギルが話題になった。

記者は、「11月の式典のお言葉で、陛下はブルーギルの異常繁殖に触れられました。こうした自然財産の共有、式典でブルーギルに触れた発言をされるにいたった思いもお聞かせください」。

天皇は、琵琶湖にブルーギルを入れたきっかけを、こう述べる。

琵琶湖にブルーギルが入ったのは、淡水真珠をつくるイケチョウガイの養殖のために貝の幼生が寄生する寄主としてブルーギルを使いたいということで、水産庁淡水区水産研究所から滋賀県水産試験場に移されたものが琵琶湖に逃げ出したことに始まります。
当時ブルーギルを滋賀県水産試験場に移すという話を聞いた時に、淡水真珠養殖業者の役に立てばという気持ちも働き、琵琶湖にブルーギルが入らないようにという程度のことしか言わなかったことを残念に思っています。