1日だけ退位、翌日復位した国王も
歴史のない王室だからだろうか。あるいは、欧州列強に囲まれて、ナポレオンやナチスなどの覇権争いに巻き込まれながらも生き延びなければならなかった性だろうか。保守的なカトリック教徒のはずのベルギー王室は、いやに世俗的で妥協上手なところがあり、それはそのままベルギー人気質とも言われる。
性別に関わらない長子継承に法改正されたばかりの1990年代初め、ベルギーではちょうど「中絶」が合法化されようとしていた。自身の信条とどうしても相いれなかった当時のボードワン国王は、法律に署名するその日だけ退位して、王不在により法律を成立させ、翌日復位することでつじつまを合わせた。ローマ教皇はこれを「崇高で敬虔な判断」と称賛し、国民も「その気持ち、わかるわ」と納得した。当時、プロテスタントの隣国オランダは既に中絶を合法化しており、このままではベルギー人の駆け込みが加速することは明白だったからだ。
「隠し子」認知で52歳の新王女が誕生
日本の皇室からすると、想像を絶するような王室エピソードはほかにもある。前国王アルベール2世が生前退位した2013年、隠し子であると名乗るデルフィーヌさんが元国王を相手に訴訟を起こしたのだ。裁判所は前国王にDNA鑑定を命じ、その結果を踏まえて2020年10月、前国王はとうとうデルフィーヌさんを認知。こうして、ベルギー王室には52歳になる新しい王女が加わった。
そんな驚きの出来事があっても、ベルギーでは誰も「王室はこうあるべき!」などと反対デモをしたりしない。王室であっても、他人の家庭に口出しはしない。自分に直接被害が及ばなければ「よかったじゃないの」と受け入れてしまうのだ。