厳しい要求をしてきた相手を「恩人」だと思った

その結果、こちらはものすごく鍛えていただいているだけに、他の電機メーカーに行ってみても、松下ほど厳しくはない。「本当にこの値段でよろしゅうございますか」と、こちらが言わなければならないぐらいの値段です。

稲盛和夫述・稲盛ライブラリー編『経営のこころ 会社を伸ばすリーダーシップ』(PHP研究所)

剣道でも柔道でも、達人に激しい練習で鍛えられると、どんな相手にも楽々と勝てるのと同じです。さらにその勢いをかって、アメリカやヨーロッパへ出て行って競争し、勝っていったのです。

私はつくづく思いました。他の下請けの人たちは「松下は中小企業の生き血を吸って大きくなった」と言うが、「何を言うか」と。

松下さんには本当にいくら感謝しても足りないぐらいだ。あの厳しさがあったからこそ、今日の京セラがあるのであって、「よくぞここまで鍛えてくださいました」と手を合わせなければならない。「足を向けては寝られないな」と思いました。

松下を逆恨みしてつぶれていった会社も、大阪の下請けにはありました。しかし私のように、厳しい要求をしてきた相手に感謝し、京セラ発展の恩人だと思っていると、そのつらさをポジティブに受け止めて、いいほうにいいほうにと考え、努力していきますから、それがさらに血肉となって発展していくわけです。

同じ厳しい条件、極端にいうと、この世の地獄のような条件にあって、ある人はそれを地獄と取り、ある人は自分を極楽へ連れていく道だと取る。その受け取り方によって百八十度、経営も人生も変わっていくのです。

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