「常に厳しい値下げを要求されるのが下請け」と覚悟を決めた
そうしたなかで、松下の下請けの仕事をしている人たちの会がありました。
私はセラミックスをやっていましたが、ほかにも打抜きの金属のパーツやプラスチックの成型など、いろいろな下請けをやっている人たちが集まった席で、あるとき、「もう値切られて困ってます」と言うと、そこに集まった下請けの人がみんな「稲盛さんもそうですか。ウチもですわ。だいたい松下だってもともとは中小企業で小さかったのに。我々のような中小零細企業をいじめて大きくなった会社ですよ」と膨れっ面をしている。
「そうかもなあ」と思ったけれども、みんなそのわりには立派な背広を着ていました。また、そういう人たちを見て、「ちっとも死にそうなほど苦しい顔はしていないな」とも思いました。やっぱり、松下の仕事をして儲かっているのでしょう。
ところがその人たちはいつもブツブツ文句を言っている。どうもそれはおかしいのではないか。だから私は、不満を言って喧嘩をするのではなく、常に厳しい値下げを要求されるのが下請けというものだと思うことにして次のように訴えたのです。
「値段はお客様が勝手に決める」
「それなら松下さん、値切り倒してください。私はあなたが値切るなら、値切る先をいきます。値段はいくらにしろ、と言ってください。言った通りにします。そのかわり今後、決算書を持ってこいとは言わないでください。私がいくら儲かろうと、それは私の才覚です。あなたがほしい値段で売ります。その値段よりもはるかに安い値段でつくるのは私の才覚、技術者としての私の才能ですから、文句を言わないでくださいよ」
しかし、そう言ってみたものの、これからどうすればいいのか。会社に帰ってから、私は幹部社員を集めてこう言ったのです。
「値段はお客様が勝手に決める。だから、これからは原価がいくらで適正利潤をいくら乗せて、いくらで売るというような呑気なことは言っていられない。いくらと松下さんに言われれば、それよりも安い値段でつくらないと仕方ない。言われた値段よりもはるかに安い値段でつくることが、我々幹部社員の責任だ。そのことを日夜考えよう」
ですから、当社のフィロソフィの中には「値段はお客様が決める」という考え方があるのです。つまり、我々では決められない。お客様が決められた値段よりもはるかに安い値段でつくる、その努力をするのが技術屋の仕事だと位置づけて頑張りました。