全ては1年後のインバウンドのために動く
ロックダウンが解除となり迎えた20年の夏、ギリシャは欧州において感染拡大が抑えられてはいたが、やはりワクチン普及の前とあって、外国人旅行者の数は前年と比べ激しく落ち込んだ。
ギリシャ政府は、観光業の起死回生をかけて、ワクチン接種が進むと予測された21年に向けてインバウンド戦略を練り始めた。
まず、20年の秋から21年の春まで半年近くに及ぶ2回目のロックダウンで感染者の拡大を抑制し、21年の観光オンシーズンの初夏に備えた。
ロックダウンの半年間、学校は休校でオンライン授業(保育園、小学校は一時期対面授業)。外出が許されるのは、生活必需品の買い物、治療、やむを得ない出勤、社会的距離をとった運動、介護が必要な人への訪問など数項目のみ。
外出時は許可証を携帯電話のSMSか用紙に記入して申請、IDとともに所持する。マスク着用義務、集会等も禁止で、違反したら多額の罰金が科せられた。
ワクチン接種開始も他国に比べ早かった。20年の年末から医療従事者や高齢者を優先しながら始まり、21年に入ってからも急ピッチで進められた。
本格的なバカンスシーズンの前には全ての年代が必要回数の接種を受けることが可能だった。ギリシャにはサントリーニ島、ミコノス島をはじめとした世界的なリゾートの島が多くある。島民はほぼ全員、観光産業に従事しているため、接種1回タイプのワクチンを供給するなど島民への接種も迅速だった。
ギリシャ首相が推し進めた「ワクチンパス」
現在、EU加盟国内ではEUデジタルCOVID証明書(グリーンパス)があれば、コロナ禍でも比較的容易に行き来ができるようになったが、これは元々ギリシャのミツォタキス首相のアイデアだった。
21年2月の時点で、ミツォタキス首相は国内外のメディアに、ギリシャの感染拡大が抑えられていることをアピールするとともに、この彼の提案を繰り返し説明していた。
ワクチン接種済みの人にはQRコード付きのパスを与え、EU内の行き来を自由にするという案だ。その時点でEUの数カ国が関心を寄せており、ミツォタキス首相は加盟国間での最終的な合意への期待を強く表明していた。
そして3月、欧州委員会が正式にこのアイデアを採択した。
グリーンパスのQRコードに含まれるセキュリティー機能の検証は急ピッチで進められ、予定より1カ月前倒しで6月1日から、ギリシャ、ブルガリア、チェコ、デンマーク、ドイツ、クロアチア、ポーランドの7カ国が最初に稼働を開始した。