われわれの立ち位置を明瞭にさせる展望台を作りたい

『岩波講座 世界歴史』は、実は今回が三回目の企画ということなる。最初は1970年前後に刊行され、言ってみれば日本の高度成長期の歴史意識を反映していた。そこには、進歩と発展への明確な見通しがあった。

二回目は1990年代終わりごろの刊行であり、米ソの冷戦が終結して世界情勢が新たな段階に進みつつあった時代にあたる。グローバル化の進展や科学技術の発展がもたらす問題の所在が意識され始めたなかで企画されたと思われる。

『岩波講座 世界歴史 第1巻 世界史とは何か』(岩波書店)

それでは、第三シーズンにあたる現在の『岩波講座 世界歴史』が示そうとした新しい歴史像は何か。編集委員のなかにも多少の見解の相違があるかもしれないが、少なくとも私が考えている刊行の意図を述べるならば、次のようになるだろう。

先の見通せない時代にあって、歴史への問いかけを通じて、われわれの立ち位置を少しでも明瞭にするのに役立つ展望台のようなものを作りたい。展望台まで行かないとしても踏み台のようなものでよい。そのような知的な基盤から出発し、われわれこそが歴史を生み出す主体なのだという自覚をもちつつ、人類の未来について模索していくようにしたい。

それはたぶん終わりなき模索であり、簡単には正解を得られないということは承知の上で進んでいくしかない。しかし、過去の人類の奮闘と哀楽はわれわれにとっての貴重な遺産になるはずである。

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