昨年、24年ぶりに『岩波講座 世界歴史』(岩波書店)の刊行が始まった。教科書ではなく、こうした歴史書を読む意味はどこにあるのか。編集委員を務める東京大学の吉澤誠一郎教授は「社会人にこそ世界史を学んでほしい。そこには3つの理由がある」という――。
世界史の大きな変化を見過ごしていないか
ギリシア最大の海港ピレウスは、中国の海運大手である中国遠洋海運集団(コスコ)から大規模な出資を受けている。報道によれば、ピレウス港を管理する会社の株式の半数以上は、コスコの手中にあるという。
ピレウス港はバルカン半島の南に位置し、東欧から中欧に至る物流の拠点ともなりうる。中国の「一帯一路」構想がヨーロッパで展開している一例である。
ピレウスの歴史は古い。古代ギリシアの繁栄期にピレウスはアテネの外港として重要な意味を持っていた。
古代アテネの政治家テミストクレスは、ピレウス(ペイライエウス)に城壁を築いた(トゥキュディデス『戦史』)。テミストクレスは、ペルシア帝国との戦争を指揮して勝利を挙げた後、アテネの発展は海洋制覇にかかっていると考えてこの工事を進めたのだった。
ペルシア戦争は、ギリシアの民主制がオリエントの専制を打ち破ったものとして語られてきた。民主主義の発祥地としての自負心を持つギリシアが、21世紀に入った今日、中国の「一帯一路」の拠点となっているのを見ると、世界史の大きな転機にわれわれが直面していることを感じさせる。
しかし、われわれは、このような大きな変化を視野に収める視点を持てているだろうか。