SNS映えを意識する若者と旅の融合

東京・渋谷の商業施設内に設置されたピーチの「旅くじ」(写真=プレジデントオンライン編集部撮影)

「旅くじ」のターゲットは、20~30代の若い層だった。実際にいち早く反応したのも20代だったが、話題になった後はシニア層やZ世代にも広く利用されているという。カプセルを開けるまで行き先のわからないドキドキ感がヒットの最大の要因だが、企画の面白さの他にもヒットの条件は整っていた。

まず一つは、SNSとの親和性の高さだ。カプセルが入ったガチャガチャは、ピーチのコーポレートカラーであるピンクで塗装されて、ひときわ目立つ。小笹氏も、「色やカプセルの見え方など、カメラに撮りながらやりたくなることを意識してデザインした」という。

旅先でのミッションの様子も、SNSに多数投稿されている。北海道には河童伝説で有名な定山渓温泉がある。最寄りである新千歳空港行きのミッションの一つは、「きゅうり持参で河童とツーショット写真を撮ってきて」。これを引いた利用者は、機内にきゅうりを持ち込んだ様子や河童像の写真を投稿した。映えのネタを探していてる人には、格好の企画だった。

 

「グループなのに行き先がバラバラ」という新しい旅行スタイル

もう一つ、旅行スタイルの変化にマッチしていたことも大きい。かつては旅といえば、観光や旅館でのくつろぎなど、何かしらの目的があって行くものだった。しかし、LCCの登場でコスト面のハードルが下がり、必ずしも特別な目的を必要としなくなった。

「旅には目的が必要とされていた時代なら、北海道の女満別は旅行先の候補にあがりにくかったでしょう。しかし、今は行き先での目的より、旅にいく手段やプロセス自体を楽しむ人が増えてきた。旅ができればいいので、女満別も『5000円台で行けるなら』と候補に入ってくる。行き先を問わず旅そのものを楽しむスタイルに、『旅くじ』はぴったりだった」(福島氏)

旅行は何かの目的を果たすための手段ではなく、旅に出ること自体が目的に――。このトレンドを象徴するような「旅くじ」の使い方もあった。

「グループでくじを一人ひとり引いて、別々の場所に行き、夜にネットでつないで報告し合うという若いお客様がいました。これから卒業旅行のシーズン。そのような利用法はもっと広がるかもしれません」(小笹氏)

グループ旅行は、みんなで同じ体験を共有することに醍醐味があったはずだ。しかし、もはやみんなで同じ思い出をつくることすら必須の目的ではなくなった。こうしたスタイルをグループ旅行と呼んでいいのか微妙なところだが、これまでにない旅の楽しみ方が生まれて、その動きを「旅くじ」が後押ししていることは確かだろう。